ヘビがニョロニョロ(その5)
~人間がヘビになった話~
今回もまずは『日本霊異記』から。ヘビが人間に化けるだけではなく、人間がヘビになる事もあるというお話。
聖武天皇の御代に、奈良の馬庭の山寺の一人の僧が臨終にあたって弟子に、「死んでから三年経つまでは部屋の戸を開けてはいけない」と告げた。そしてその僧の死後、四十九日を過ぎると、大きな毒蛇がいて、部屋の戸口に伏していたのである。そこで弟子が蛇を教化し、部屋の戸を開くと、銭三十貫が隠しためてあった。
弟子はその銭に経を読み、供養した由。これは僧が銭をむさぼり隠すあまり、大蛇に生まれ変わって守っていたということ。須弥山の頂上は見えても欲の山は限りなくて見えないとは、このことを言うのである。
これは「四十九日を過ぎると」というところがミソでだな。どういうことかというのは私の「京都ミステリー紀行・冥界編」で詳しく述べております。今は定例のツアーには入ないが、ご予約により催行いたします。
とまあ、宣伝をしてしまったが、こういう口では偉そうな事を言いながらお金に汚い坊主というのは現代でもいるようである。
ところで、人間がヘビになるというので有名なのが「道成寺」だが、今では安珍清姫の伝説についてはマイナーになってるかもしれない。
醍醐天皇の御代、延長6年(928年)夏の頃、奥州白河より熊野に参詣に来た僧、安珍は大変なイケメンであった。庄司清次の娘、清姫は宿を借りた安珍を見て一目惚れ。なんと女だてらに夜這いをかけて迫る。安珍は参拝中の身としてはそのように迫られても困る、帰りにはきっと立ち寄るからと心にもない約束をして、参拝後は立ち寄ることなくさっさと行ってしまった。
安珍さん、よほど激しく迫られたのだろうか。
騙されたと知った清姫は怒り、裸足で追跡、道成寺までの道の途中(上野の里)で追い付く。安珍は「自分は別人だ」と嘘をついた。って、そんな事で誤魔化せるのか?
安珍は熊野権現に助けを求め清姫を金縛りにした隙に逃げ出した。ここに至り清姫は怒髪天を突き、遂に蛇に姿を変え安珍を追跡する。恐るべし、女性の執念。ひょっとしたら、清姫は自分がヘビに変身しているのにすら気づいていなかったかもしれない。
日高川を渡り道成寺に逃げ込んだ安珍。ヘビの清姫は火を吹きつつ川を自力で渡る。
安珍は梵鐘を下ろしてもらいその中に逃げ込んだ。しかしヘビになった清姫は鐘に巻き付く。哀れ安珍は鐘の中で焼き殺されてしまうのでありました。
安珍を滅ぼした後、清姫は蛇の姿のまま入水する。
正に、これはあんまりやないか、という安珍の悲劇だな。安珍は必死で清姫のアタックから逃れようとするが、それほど仏教に帰依していたのだろうか。あるいは、清姫というのは実はブスだったとか。。。
さて、ここで一転して京都でも京都市ではなく、京都府下である舞鶴のお話。
おまつ、おしもという美しい姉妹がいた。姉のおまつは18歳。あちこちから良い縁談が来るのに全て断ってしまう。
要するに、おまつには想い人がいた。ある日、妹と二人で草刈に出かけたとき、池のほとりに佇む美男子を見てしまったのである。
その後、おまつは妹と出かけるのを避けるようになり、一人で池の端に行ってはその美男子と語らい、ついには契りを結んだ(つまりセックスをした)。
これまたある日、おまつはどうしても妹とその池に行かねばならなくなってしまう。そして謎の美男子はおまつが妹と一緒なのを見ると姿を消してしまったのであった。
おまつは妹に「今日限り家には帰らない」と言うと、池に飛び込んでヘビに変身してしまったのだ。
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丹後の歴史と伝説
その後、誰言うともなく「ヘビが近辺の村に災いをもたらす」という噂が広まり、ついに「そのヘビを殺そう」ということになった。
村人の一人がモグサ(お灸に使うやつ)で牛の人形を作り、内部に火をつけて池に放り込んだ。ヘビは餌が来たと思ってそのモグサ人形を飲み込む。すると内部の火がじわじわとヘビの体内に広がり、ついにヘビはのた打ち回って死んでしまった。
ヘビの死体は岩に当って三つに切断されてしまう。村人たちはそれを見て恐れ、頭、胴、尻尾の三つに分かれたヘビの死体をそれぞれ別の神社に祀ったという。
このヘビが当った岩は「蛇切岩」と呼ばれるようになったとのこと。
これも人間が蛇になった話だが、実際は蛇は何も悪い事をしていないようである。何で退治されてしまったのかな? 冤罪と違うか?
池に現れた美男子の正体は何だったのか。ヘビ? これも良く分らん。
で、あえて合理的な解釈をしますと、おまつはその美男子と駆け落ちしてしまった!
それでは世間体が悪いので、ヘビになったことにしてしまったと。如何?
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・436】