ヘビがニョロニョロ(その1)
~ヘビは化けなくても怖い~
さて、今まで「キツネとタヌキ」「カエル」「ネコ」「イヌ」といった動物の怪異を紹介してきたが、今回からいよいよヘビである。
このヘビの気色悪さというのは何といっても手も足も無いのに地面や壁を這って進むし、川でも池でも泳いで行く。とにかく凄いのだ。
そこでそのヘビの話なのだが。。。
今は昔、近江の国に佐田源内というお金持ちがいた。女好きで結婚もせず、日々遊び呆けている人であったと。
ある年の三月、友達と共に唐崎に花見に行った。散々遊興に耽った挙句、日も暮れて帰宅の途についたとき、瀬田のあたりで源内さんは小便がしたくなったのである。
一行から離れて用を足し、ふと見上げると雲間から出た月が美しい。風情に浮かれてのんびりと歩きながら一行の後を追いかけていると、琵琶湖のほうから大勢の人の声がするではないか。
良く見ると美女をたくさん乗せた船がこっちにやってくる。そして船から降りた美女たちは宴を始めた。
宴たけなわになった頃、源内さんはいかにも月明かりの風雅に魅せられてうっかり口ずさんでしまったという風に詩を吟じたのである。
それを聞いた美女たちは源内さんを宴の席に誘った。しめしめと思った源内さん、美女と酒肴を共にしたのだ。
やがて真夜中になりと美女は源内さんに「夜も遅いので今夜は私の家に泊りませんか」と言う。
またしてもしめしめと思った源内さん、家についていったのだね。するとその美女の姉がいて、「これも何かのご縁。今宵は妹と一夜を過ごしてやってください」と言うではありませんか。源内さん、またまたしめしめと承諾した。寝室に入ってきた美人に源内さんはうっとり、いよいよ、という時になって家中が大騒動の気配。余りの騒ぎに我に返ると、自分が苔むした洞窟の中にいるのに気づいた。
慌てて外に出ると下男がいて、「姿が見えなくなったので探しに来ました」と言う。洞窟を良く調べてみると、そこはヘビの巣だった由。
無事に洞窟からは脱出したものの、源内さんは宿屋で発病。翌朝になって下男が様子を見に行くと源内さんは蒲団の中で白骨になっていたという。(拾遺伽婢子)
色ボケ男の悲劇だが、似たような話が前にもあった。「キツネとタヌキはどちらが悪い(その6)」の中でキツネが集団で人を騙したが、そちらのほうは騙された武士は無事に助け出されている。しかしヘビの場合は、脱出には成功したものの結局は殺されてしまったと。
やっぱりヘビは怖い?
さて、昔から「ヘビのように執念深い」と言うが、その執念の深さを記す話が『古今著聞集』にある。
鎌倉時代の京都、北小路堀川にあった家で女がお湯を沸かしていると1メートル近くもあるヘビが入ってきて、竈(かまど)の前にあったネズミの穴に潜り込んだ。この家の女が怖がっていると隣の家の女がやって来て、煮え湯を穴に注ぎ込んでヘビを殺したのである。
その翌日から隣家の女は発病し、「熱い、熱い」とうなされながら死んでしまった。死体の身体は煮え湯を掛けられたように爛れていたという。
これはヘビの執念というより怨念かもしれない。だいたい隣家の女もいきなりお湯をかけてヘビを殺さなくてもよかったのでは? このヘビ、人間には何も悪い事をしていない。ネズミの穴に入って行ったということは、ネズミを食べるつもりだったのだろう。ネズミのほうが物をかじったりして人間に害をもたらす。ヘビは人間の役に立っているのではないか。
結局、神様というのは陰険な、いけ好かない奴ではないのか。人間の役に立つ生き物を醜怪な姿に作ったのだから。絶対そうやと思う。うん。
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・432】