やっぱり新税「宗教法人税法」制定のすすめ
~なぜ税率1%でいいのか~
前回、前々回と続けて減税より新税「宗教法人税法」制定をすすめるという記事を書いてきた。税率は1%でいい。何故かという理由を記す。
もちろん、払い易い税率でなければならないというのもある。
しかしもうひとつ、「これでいいだろう」と思えるわけがある。
今はもう誰も何も言わないが、かつて京都市はお寺の拝観料に税金を掛けていたのである。
こんなことを言うと、昭和の終り頃に今川正彦市長がやろうとして失敗した時の話を持ち出して私の言うのが間違いだとなじる人がいるのだが、ここで紹介するのは60年ほど前のこと。高山義三市長の功績である。
京都市は昭和31年(1856)から44年(1969)までの13年間、お寺の拝観料に税金を掛けていたのである。
その当時、京都市は財政の悪化で赤字再建団体転落必至であった。それを回避するためにはもうお寺の拝観料に税金を掛けるしかないというので、市議会は一致した。
しかし当然、仏教界は猛反対。高山市長は窮地に陥り、市会議員たちはみんな逃げた。それでも孤軍奮闘する高山さんを援護射撃するべく東京からやって来たのが農林大臣の河野一郎であった。今、防衛大臣をやっている河野太郎氏のお爺さんである。
宗教法人を所管するのは文部省のはずなのに、なぜ農林大臣がやって来たかというと、どうも時の文部大臣は逃げたらしい。まあ河野一郎氏にしてみれば「京都の坊主てなもんワシが行って一発かましたったら引っ込みよる」と考えていたのだろうが、あにはからんや、一発かますどころか逆にかまされて歯が立たなかったようである。
これで高山市長は失脚、河野一郎は面目丸つぶれで終わるかに見えた。
ところが、ここで奇跡が起きた。
御仏のご慈悲は高山市長のほうに向いたのである。
一体、何があったのか?
その当時の銀閣寺の住職であった菅月泉という坊さんが拝観料を本山へ納めずに自分の愛人に貢いでいたというのが発覚して、背任横領で逮捕されたのである。
京都市仏教界に激震が走った。
その間隙を突いて高山市長は条例を通したのである。
まあ、清水寺は最後まで抵抗していたようだが、結局は知恩院に説得されて矛を収めた。
そして京都市は当初は19ヵ所、最終的に32ヵ所のお寺の拝観料に大人10円、子供5円の税金を掛けた。
で、どうなったか?
赤字再建団体転落必至だった京都市は7年で借金を完済した。
さらに比叡山ドライブウェイを通した。
さらに宝ヶ池に国際会議場を誘致した。
さらに京都会館を建てた。
さらに京都市交響楽団を作った。
これだけのことが出来たのである。
だから新税「宗教法人税法」の税率は1%で十分なのである。
さてそれでは、読者のみなさんは「その税金が何故なくなったのか」と思われるだろう。
実は条例には期限があって、その度に高山市長は薄氷を踏む思いで更新していた。
ところが高山さんが四選目の選挙に臨むとき、京都市仏教界も打撃から立ち直っていて「高山四選は断固阻止する」と、独自候補を立てようとした。そうなると保守票が割れて結果的に共産党候補が当選してしまう。それは困ると、ここで高山さんは仏教界に妥協してしまったのだ。つまり、「今度この条例の期限が来たらもう延長はしません」という念書を書いてしまったのである。昭和の終り頃に今川市長が夢よもう一度で新たな条例を作ろうとしたとき、京都市仏教界が反対の根拠にしたのがこのときの念書である。
もっとも、高山市長は一旦この条例を終わらせても将来に復活させる目算があった。
というのも、高山市長の後継者になった井上清一市長は自民党の参議院議員だったが、その前は京都府警の本部長であった。つまり、元警察官僚の参議院議員を後釜に据えて、2年ほどして井上新市長が職務を掌握したところで条例の復活を企てていた。
ところがこの井上市長、在任わずか1年で脳出血のためにコロッと亡くなってしまった。
で、まさかまさかの市長選で当選したのが共産党の富井清氏だったのである。
これで条例の復活は完全になくなってしまった。何故か。その当時、清水寺の大西良慶管長と京都府知事で共産党の蜷川虎三氏が懇意だったからである。
よって昭和44年で拝観料に課税する条例はなくなったのだが、ひとつだけ押さえておかなければならないことがある。
条例がなくなって拝観料に税金が掛からなくなってもその分の値下げはなかった。
つまり、それまで税金として京都市に入っていたお金はそれ以後、全て仏教界に流れたのである。
何はともあれ、私が新税「宗教法人税法」の制定を勧めるのはこういう事があったからなのだ。そして税率は1%でいいというのも、この京都市の前例によっている。もちろん、現在と60年前では貨幣価値も違うので一概には言えないだろうが、やっぱり1%で大丈夫ですって。
しかし実現させるのは大変だろうと察する。
もう何年前になるのだろうか、宗教法人への課税を目論んだ人がいた(と私は思っている)が、事前調整をやろうとした段階でバレて潰されてしまった。
次回はこの話をする。
【言っておきたい古都がある・383】