夜風が気持ちいい酒
アテと1杯の酒が楽しい。
それは街場の正しいひとり遊びだと思う。
そのためのカードをいくつもためておく。
そのカードを切った後に感じる、
京の夜風がどれだけ気持ちいいか。
【 第21回 】 2009年8月
「呑んだり、喰ったり」していることの面白さは誰かと何かを楽しんでいることを倍ほどにもしてくれる。それが街的なセンスであったり、街場のコミュニケーションであったり…というものだ。
普段はそこに居合わす誰かに何が喰いたいか、何を呑みたいかを訪ね、職業柄のホスピタリティを発揮するわけだが、街とのコミュニケーションにおいては、時にひとり酒という抜き差しならない場面がやってくる。
そんな場面では、他人がきいたら「アホ」としか思えないかもしれないが、「今、自分はどこに居るのか?」「体調は?」「何が食べたく、何が呑みたいのか?」「行って合点が行く店、欲求を満たす飯はあるか?」「行った事はないが、行くべきだと思っていた店はないか?」、空を見上げたり空気の匂いや温度を感じ直したりして「今、食べるべきものは何か?」なんてことを頭のCPUを高速回転させて考える。
ついつい、京都の夏場は冷酒を軽くひっかけて…なんて頭になってしまうことが多いものだ。それと同時に「鮎の安くてうまい店はないだろうか?」とか、「いや、鮎もいいけれど、ぼってとしたアマゴもいいな」などと頭は考えだす。ゆっくりと身をほぐしながらやる冷酒は本当にうまい。ま、そんな川魚と冷酒は、和食の店にしけこんでいるわけだが、そういったときは必ず野菜を頼む事を忘れない。丸ままのトマトだっていい。夏野菜は体温の火照りを落ち着かせる効果がある。瓜類は特にそうだ。どぼ漬けもうまい(ご存知のように僕は吉符入りから夏越の祓いまではキュウリを食べないのだが…)。なんか勢いがついてきた?
夏場に日本酒と言えば貝もまた合う。アワビとは言わないが、蛤やサザエなんかは気軽に食べられて酒も進むというもんだ。最近は、割烹だけでなく、魚介が売りの居酒屋も増えてきた。また、いい感じの立ち飲み屋なんかでは、きちんと季節の素材でもっていいアテを出してくれる店も多い。せちがらい世の中だからこそ、そういった店の切り札をきちんと懐にしのばせておきたいものだ。
冷酒ときたら、次はビールというものだが、僕はビール党ではないのであれこれと頭が回らない。が、夏場はなぜか中華とビールというのを頭に浮かべてしまう。「泉門天」の餃子で、というのもいい。「鳳舞」でからし鶏と、いや千中の「竜鳳」で焼豚もいい。「北京亭」で芝エビのケチャップ煮もいいなぁ。と、ここまで書いて気がついたんだが、酸っぱくてピリっとするものとビールというのが夏はあっているんじゃないか? 京都の夏は独特の暑さがあるからな〜。
そんなこんなで最後は、夏でも赤ワインな僕が最近ひとり酒ではまっているのが、バル&バール。京都のそこここにできていることは嬉しい限りだ。夏メニューという訳ではないが、今出川川端西入ルの「フリーゴ」の、エビとホタテの香草バター煮なんかは、赤ワインの友として最高にチビチビやれるアテである。もちろん、煮込み系のアテだけではなく、バル&バールには夏らしい冷たくて美味しく、かつスピーディに供されるメニューもいっぱいある。酒やビールから目先を変えて、ちょいと気軽にグラスで1杯というのもいいものである。
まぁ、最高のアテで何を呑むにせよ、ご機嫌になるのはもちろんなことだが、脚元にくる前に夜風に当たりながら帰るのがよろしいんじゃないだろうか。歩きながら感じる京都の夜の闇の深さもまた、とても風情がある。ちょっと酔っているからこそ見える景色というのも、京都にはあるのだ。