論語の知恵(完結編)
~孔子流サラリーマン処世術~
論語の知恵に学ぶシリーズは早くも完結編。えらく早いこと終るなと思われるかもしれないが、まあ、論語に関しては色々な入門書があるので、図書館ででも探して読んでください。
そう、本稿を読んで『論語』に興味を持ったら是非その『論語』そのものを読んでいただきたいのである。口語訳も出ているし、本格的に学びたいと思ったら明治書院の新釈漢文大系がお薦めである。これは原文、書き下し文、現代語訳、解説と、痒い所に手が届く優れた本である。
さて、前回の最後に記したが、孔子による「秘儀伝授 サラリーマン処世術」とは如何なる物かと読んでた。
「広く聞いてまわり、疑問の点を後回しにして確かなことだけを言って口数を少なくすれば、非難を受けることが少ない。広く見て歩き、不審な点を後回しにし、自信のあることだけに限って実行すれば、しまったと思うことが少ない。言葉について非難が少なく、実行したことに後悔が少なければ、俸給は向こうのほうから歩いてくる」((為政第二34)
うーむ、これって、当たり前のことでは?
「君に仕えては、そのことを敬し、その食を後にす」(衛霊公第十五416)
これって、「就職したら自分の職務を重んじて精勤し、給料やポストのことは後回しにする」という意味だな。こういうことを言われると私の目論見とは違うのだが。。。
「学べば禄その中にあり」(衛霊公第十五410)
勉強すれば給料が上る、ということか。でも「いい学校を出たらいい会社に就職できていい給料がもらえる」と(無理に)解釈することも出来そう。
「地位のことを気にしない。地位に相応しい実力を持つことを気に掛ける。認められないことを気にしない。認められるだけのことをしようと努める」(里仁第四80)
結局何ですか、「簡単な方法は無い。真面目にやれ」ですか。これならわざわざ孔子先生に言ってもらう必要はないようにも思う。
それでは、せめてどういう人間になるようにすれば良いかを尋ねると、「学而第一10」に「温・良・恭・倹・譲」というのがあった。
①温和である。しかし単なるお人好しではなく、おだてに乗らない。
②素直で筋が通って性質がよい。会議などでほとんど発言していないように見えるのだが、短くツボを押えた意見を言う。
③慎み深くて粗暴な言動が無い。誰に対してもこうでなければならない。
④節度がある。ものには限度があることを知っている。
⑤謙虚である。押し出しが強すぎてもいけない。
まあ、「なるべく人とは争わないことにしよう」ということだろうか。
もちろん、それとは逆の「克・伐・怨・欲」というのがあり、つまり上記の逆をやってはいけない。
①他人を平然と押し潰す。
②自分の功績を自慢する。
③人を怨む。
④欲張る。
(憲問第十四335)
さらに処世のため、してはならないことが3つある。
①先走って軽はずみなことを言う
②言わねばならないときに隠して言わない。
③言うべきか言うべきではないか、相手を見て判断をせずに言う。
(季氏第十六426)
この辺りは2500年前も現在もあまり変わらないようで。。。結局、人間というのは変わっていないのか。
年代に応じた「べからず」もあり、年齢に応じて次の3つを警戒しなければならない。
「「青年期は血気が定まらないから色情、壮年期は血気盛んで自己主張が強いから他人との争い、老年期は血気衰えて安逸をむさぼるから貪欲を警戒すべし」(季氏第十六427)
この3つを警戒した上で「学而第一16」にある「人の己(おのれ)を知らざるをうれえず、人を知らざるをうれえる」ということになるのだろう。「認められないことを気にせず、自分が人を正しく評価していないのではないかと心配する」のだと。
つまり、機会を与えられなくても実績が上らなくても「俺を認めてくれない」と不平を言ってはいけないし、責任を転嫁してもいけないと。
結論。結局、お手軽な処世術というものは無い。
身も蓋もない話になってしまった。『論語』ネタはこれでおしまい。
【言っておきたい古都がある・253】