優先座席なんて止めてしまえ、という話。
~「おもいやり」にも「おもてなし」にもなっていない~
前回までは「小学校で英語を教えるのは止めてしまえ」という話を書いてきたが、その流れで今度はバスや電車の優先座席を止めてしまえという話である。
これまた古都・京都のネタとは離れてしまうが、まあ京都の乗り物にも優先座席があるし、またこの話題のきっかけは京都の市バスなので大目に見ていただこう。
もう数年前のことになるが、春のシーズンだけ修学旅行生の案内を手伝っていた。
定番どおり、市バスの一日乗車券を持って市内を巡るわけである。
で、私の班が市バスに乗ったとき、座席はほぼ満員で優先座席だけがぽっかりと空いていたので、中学生たちは早速その優先座席に座ったのである。
これは別に問題ない。他にお爺さんやお婆さんもいなかったのだから優先座席とはいえ座ればよいのである。ちなみに私は立っていた。もう座席がなかったから。
そして停留所をいくつか過ぎた頃、かなり年配の女性が乗ってきた。
私は中学生の誰かが席を替わるものと思っていたのに誰も立ち上がる気配がないので、「おい、替われ」と促した。
一人が立ってちゃんと席を譲ったのでそれはそれで良いのだが、そのとき別の男子が、
「お前、優先座席だからちゃんと替われよ」
と言ったのである。
ここに私は引っかかるものを感じた。
なにもその生徒が自分は席を替わってないくせに替わった生徒に説教を垂れたから引っかかったわけではない。私が、
「まてまて、君は自分が座っているのが優先座席でなかったら替わらずに知らん顔をするのか」
と言うと、相手の生徒は怪訝そうな顔をするので、
「優先座席だから替わらねばならないのではない。優先座席でなくても替わってあげなければならない人が来たら、ちゃんと替われ」
という話をしたら、とりあえずは「はい」と言ってくれた。
その生徒がその後、どのようにしているかは分からない。
まあ、私自身そのとき初めて気づいたからあまり偉そうな事は言えないのだが、「優先座席だから替わりなさい」という教え方はおかしいのではないか。本来、優先座席であろうがなかろうが弱い立場の人が来たら替わってあげるべきだろう。優先座席ではないのだからと、気づかない振りをして本でも読んでいれば良いというものでもない。
そもそも「優先座席」という教育の仕方がおかしいのではないのかと思った。
「優先座席だから替わってあげるのが思いやりだ、親切だ」というのは偽善ではなかろうかと感じた次第。
これはついこの1月の話。
大阪の吹田市での用事を済ませ、その夜に京都である会議のために阪急電車に乗っていた。満員とまでは行かないが吊革がほとんど塞がっている状態で、何と優先座席だけが綺麗に空いていたのである。
別にお年寄もいなければ妊婦さんもいない。誰憚ることなく座ってよいのだ。にもかかわらず、誰も座っていないのである。
まるでそこだけ結界であるかのように。
そこは自分たちの座る席ではないと思っている。
こうなると、そこに存在するのは「思いやり」でも「親切」でもなく、断絶である。ここからはもう「ふれあい」などというものは生まれないだろう。
故に私は「優先座席なんか止めてしまえ」と、声を大にして言いたい。お年寄りやら体調の悪そうな人が来たら、普通に替わってあげればよいのである。
こんなものは学校で教える必要はない。
これも修学旅行生を案内していたときのことだが、自分で思ったことは自分で実行しなければならないと、私はバスの中でお婆さんに席を譲った。その時は「やった」と、自己満足に浸っていたのだが、数週間後にそのとき案内していた生徒たちからお礼の手紙が届いた。その中の一人が、
「谷口さんがバスの中でお婆さんに席を譲ったのを見て、前の席に座っていた自分が譲るべきだったと反省しました」
と書いてきた。そういえばその生徒は通路を挟んで私の斜め前に座っていた。前にいた自分のほうが先に席を譲るべきだったと分かってくれたのである。
このように、こんなことは学校で教える必要もない。大人が普段から日常的にやっていれば済む事なのだ。
優先座席など止めてしまえ!
蛇足だが、先ほどの阪急電車の中での話の続き。
席が空いているのに優先座席だからといって誰も座らない馬鹿馬鹿しさに呆れ返り、私は単身その席に座った。4、5人は座れる席に1人で座って悠々と本を読んでいた。もちろん、替わるべき人が乗ってくれば替わるつもりである。しかし結局、最後まで替わってあげなければならないような人は乗ってこなかった。
つまり私は京都までゆっくりと座って帰ってきたのである。しかもその間、私と同じようにその優先座席に座る人もいなかった。私は優先座席に1人だけ座り続けていたのである。
何となく、座り心地の悪いものを感じていたのも事実であった。
【言っておきたい古都がある・72】
(この「止めてしまえ」シリーズは次回もう一度だけ続けます)