冥界編ハイライト(その6)
〜天国よいとこ一度はおいで〜
さて、もう1度冥界裁判に話を戻す。
天上界も生まれ変わりの6つの世界に入っているということは、天上界の住人も死んだらまたどこかに生まれ変わるのか、ということになる。
そうなるようである。天人でも死ぬ。欲望もある。天上界には「戯女市」(げじょし)という場所があり、これは人間界における「フーゾク」と言えばよいでしょう。「六欲天」という天人は食欲も性欲も旺盛との事。
こんなことを書くと「天国良いとこ一度はおいで」と昔の歌のフレーズを思い浮かべる人もいるでしょう。しかしそうとばかりも言って入られません。天人でも死ぬのです。
「天人五衰」と聞いて三島由紀夫を思い浮かべる人はかなりの「通」である。それはそれとして、天人はどのように死ぬかというと、次の5段階を辿る。
①頭の上の花がしぼむ。
②腋の下に汗が出て臭う。
③着ている衣が垢で汚れてくる。
④身体にはりがなくなってくる。
⑤何をするのも嫌になってくる。
これが「五衰」でである。この兆候が出てくると、他の天人から見捨てられるという。
見捨てられる!
天上界というのは何と薄情なところなのか。みんな優しいんじゃないの?
イメージと違うなあ。
天上界の住人は1人寂しく死ぬのである。常に孤独死か。
そして天人といえども、死ねば地獄に落ちるかもしれない。この辺はシビアな世界なのである。
皆さん、死んで天上界に生まれ変わりたいですか? それとももう一度、人間界がいいですか?
その天上界というのはどのような世界なのか。
天界は6つの階層に分かれている。一番下は「下天」で、ここには四天王が住んでいる。東方を守る持国天、南方を守る増長天、西方を守る広目天、北方を守る多聞天。多聞天は毘沙門天とも言う。「四天王」というユニットで登場すれば「多聞天」だが、ピンで出てくれば毘沙門天なのだな。
四天王は下天に悪を成すものが入ってこないように守っている。天上界が平和なのはそれを守っている「軍隊」があるからなのだ。天人が涼しい顔をして「非暴力」を説けるのも、身体を張って守ってくれる人がいるからである。
下天に生まれ変わった人の寿命は500歳。但し、下天の1日は人間界の50年に当たるので、下天の人の寿命を人間界の時間に換算すれば900万年(!)になる。但しこれは人間の眼から見たらそうなるという話であって、天人からみれば我々と同じ感覚の1日といえるのである。たとえば昆虫の眼から見たら人間は物凄く長生きをしていることになり、「想像を絶する長寿」になるだろう。それと同じで天人から見れば人間はすぐに死んでしまう虫のようなもの。コオロギとか鈴虫から見れば、人間は「2000年以上生きる」事になるかもしれない。
下天の1日が我々の50年に当たり、そこの住人の寿命が500歳ということは、昔は「人生50年」と言ったので、下天の天人の目から見れば、人間の寿命は1日ということになる。そこで天人の間で次のような会話があるかもしれない。
「人間界って本当にあるのかな?」
「あると思うけどなあ」
「俺は信じない」
「人間の寿命は1日だそうだ」
「ひえ〜っ、何にもやることが出来ないよ」
「やだなあ、朝に生まれて夜に死ぬなんて」
「私たちも悪い事をすると死んで人間界に行かされるかもしれないんだよ」
「心配ない心配ない。人間の寿命が1日なら、1日でまた生まれ変わってここに戻れるさ」
「人間界で悪さをしたら地獄へ行かされるかもだよ」
「たった1日でどんな悪さが出来るんだよ。1日ですよ、1日。何が良いか悪いか理解する前に死ぬって」
天上界に生まれ変われば900万年は生きられるというのは人間の感覚だから、その世界の時間の流れの中にいる限り、一生の長さの感覚には大差が無いのではないだろうか。
天上界といえども六道輪廻の世界のひとつ、故にそこの住人にだって煩悩もある。食欲もあれば性欲もある。天人だって悩むしセックスもする。意外と、人間界と変わらないかも……。前回書いたように、帝釈天でも婚約者をレイプしたわけですから。こうなると、何が良いのやら悪いのやら。
次週は下天の上にある天の世界を探訪する。
【言っておきたい古都がある・48】