冥界編ハイライト(その2)
〜冥土の旅のお出迎え。脱衣婆から五官王まで〜
京都ミステリー紀行・冥界編をヴァーチャルで楽しんでいただく企画の2回目。
【冥界の続き】
さて、三途の川を渡ったところで待ち受けているのは懸衣翁(けんねおう)と懸衣嫗(けんねう)という爺さん婆さんで、懸衣嫗は別名を奪衣婆(だつえば)ともいう。奪衣婆の名前の通り、皆さんはここで着物を脱がされるのである。裸にされるのですね。
奪衣婆は脱がせた着物を懸衣翁に渡す。すると懸衣翁はその着物を衣領樹(えりょうじゅ)という木の枝に引っ掛ける。それによって枝がしなるわけだが、このしなり具合によってその人の犯していた罪の重さが分かるという。怖いですねえ。
しかし、ここでちょっと考えてみてください。「おかしい」と思いませんか。
前回説明したように、三途の川には渡る道が三つあった。橋と浅瀬と濁流である。
橋を渡った人の着物は濡れないから枝はしならない。
しかし濁流の人はズブ濡れだから着物も水を含んで重くなっているので枝は大きくしなる。
結果は初めから分かっているのです。わざわざそんなことする必要はないではありませんか。
そう、着物を枝にかけて、というのは冥界の演出なのである。単なるパフォーマンスなのだな。
冥界でもこんなあざといことをするのだと分かれば、あの世の裁きも少しは気が楽になるのではないでしょうか。
なにはともあれ、ここで罪の深さの記録をとられた後、皆さんは冥界での2人目の裁判官と対面することになる。それはどんな人か?
【こちらは現世】
新町通りを歩いていると目に付いた。これはお医者さんの看板。まるで赤塚不二夫のマンガのようだが、そうではありません。もちろん、ヤブでもありません。こういうスタイルの書体なのですね。
これを書いた人がこういうスタイルの書家なのである。この医院の先生ご本人が書かれたものかどうかは不明である。
(注・現世の紹介は冥界とは関係ありません)
【冥界に戻って】
皆さんは三途の川を渡ってから裸にされたわけだから、これれから先はスッポンポンで歩かなければならない。
さて、2人目の裁判官は初江王である。
ここには先ほど紹介した「木の枝がどれだけしなったか」という記録が届いている。それに基づいて審理が行われるのだが、特に「無益な殺生をしていないか」が問われます。もっとも、ここでは裁判官の質問に答えればよいだけのようだから、かなり楽ではある。
初江王の審理が終ると、またもや7日間かけて次の裁判官のもとに行く。しかし、毎回7日間も歩いているとお腹が減らないでしょうか。裸の手ぶらで歩いているから、弁当も何もない。では何を食べればよいのかというと、前にも書いたように線香の煙なのです。
線香の煙で空腹を癒しながら次なる裁判官のもとに行く。
それはどんな裁判官なのか?
【こちらは現世】
新町通りから花屋町西洞院に来ると、有限会社竹重という神具店がある。お神輿を作っているお店である。建物もレトロですが。
お神輿だって、どこかで作っているわけだが、ここで作っていたのですね。いくらぐらいするのか知りませんが。
もちろん、お神輿の他にも神道の装束なども作っている由。
【再び冥界に戻る】
皆さんはまた7日間かけて3人目の裁判官の前に来ました。
それは宋帝王である。この人は邪淫の罪を裁く。つまり不純性行為をやっていたかどうか。
ところで、ここでは口頭による審理などという生易しいものはない。具体的に判定されてしまいます。どんなことをするのか。
宋帝王は判定の道具としてネコとヘビを使うのである。
まず男に対して。皆さんすでに裸なので、宋帝王は猫を放ちます。そのネコがタッタッタと走っていって、その男の股間の一物にガブリと噛み付くのである。その噛み付き具合によってその人がどれほどの邪淫を犯していたかが分かる。もう邪淫しまくりだったら食いちぎられてしまいます。
女に対してはヘビを使う。放たれたヘビがニョロニョロニョロとその女のほうに行って、頭からピュースルスルッと、局部のアソコから入っていくのである。長いヘビの胴体の、どの辺まで入るかでその女の邪淫の罪の深さが分かる。
こうして皆さんの罪の深さが記録されて、またもや7日間かけて次の裁判官のところに行くのですよ。
【またもや現世】
京都に住んでいて、ある一定の年齢以上の人ならば「目川探偵」をご存知だろう。新聞や何かに自分の顔を出した広告を打っていた探偵さんである。結構有名。本も出しておられたが、かなり個性的な御仁のようですね。今も現役のようだが、もうご高齢のはずなので、実際の仕事は弟子にやらせているのでしょうか?
【冥界に戻って】
7日間の旅を経て、皆さんが対面する4番目の裁判官は五官王である。ここでは皆さんが生前に犯した罪の重さが正確に量られる。どうやって量るかというと秤に乗せられるのである。
基本的には天秤の片方に死者が乗り、もう一方に罪の重さを量る石を乗せて行く。罪が軽ければすぐに釣り合う。しかし罪が重いと中々釣り合わないので、石をドスーン、ドスーンと積み上げていく。どんなに石の数が多くなっても死者の方が上ってこないと「こいつはどけだけ罪を犯したのか」ということになるのである。こうやって罪の重さが量られる。
ただ(未確認情報ではありますが)近年は世界の人口が増えると死ぬ人も増えるので、いちいち天秤を使っていたのでは時間がかかって仕方がないというので、最近では電子秤が導入されているらしい。その上に死者がヒョイと乗ると、ピッピッピと数字が出て、「はい、あなたの罪は何キログラム」と即座に結果が出る。これが事実だとすると、冥界も進んでいるのですねえ。
さて、罪の重さをしっかりと量られてしまった皆さんは、ここからまたもや7日間歩いて次の裁判官の前に立つ。そして、この次の裁判官というのが、誰でも知っている「あの人」なのです。
どんな裁きが待ち受けているのでしょうか。それはまた来週。
【言っておきたい古都がある・39】