キツネとタヌキはどちらが悪い(その7)
~タヌキは捕まりキツネは逃げる~
キツネとタヌキを比べると、キツネは上手く逃げますがタヌキは捕まってしまうようである。
後鳥羽上皇の頃、鳥羽天皇の第三皇女が八条院に移り住むと、そこには化け物が出るという噂が広まったので、後鳥羽院は庄田頼度という武士に命じて化け物の正体を突き止めさせた。
頼度は夜中になってから八条院の天井裏に入り、化け物が出てくるのを待ち受けたのだが、何日たっても何の気配も無い。
ところが、一週間ほどすると居眠りかけた頼度の顔に瓦の破片を投げつけるものがいる。
「ついに現れたか!」と、頼度が身構えるとさらに瓦の破片が飛んできた。それを防ぎながら辺りを窺うと何やら黒い影が頭上を通り過ぎようとするではないか。頼度は抜群の反射神経でその黒い影をむんずと捕まえた。
するとその正体は古狸であったという。
化け物の正体を突き止めた頼度は後鳥羽上皇からご褒美に太刀と宿直用の衣装をもらった由。(古今著聞集)
またもやタヌキはアッサリと捕まってしまいました。
このケースのタヌキは別に人を化かそうとしたのではなく、元々八条院に住み着いていたようだ。急に見慣れない人間が移り住んできたのでうろたえたのかもしれない。
このエピソードの眼目は、後鳥羽上皇は化け物を「退治せよ」とは言っていない事である。「正体を突き止めよ」なのだな。このあたり、承久の乱では(負けたとはいえ)かなりいい線まで行った上皇だけあって拙速な指示はしない。まず事実を確認しようという手堅い手法を取っている。やはり大物は違いますね。
ところで、この捕まったタヌキだが、命は助けてもらったみたいである。まあ、ただ普通に住み着いていただから。
で、今度は再びキツネがチームワークで人を騙した話。
備中の国(今の岡山県)に賀陽良藤という人がいた。この人、奥さんが京の都に出かけた(お里帰りかな?)留守中に浮気心が出てしまったのですね。
するとたまたま美人に出会い、ナンパすると気安く乗ってきて、館に連れて行ってくれたではないか。
これはラッキーと、すっかり気分を良くした良藤は奥さんの事を忘れ、その館で13年間も暮らした。
一方、良藤が行方不明になって彼の家では大捜索をしていた。神仏にもすがり、観音像に祈っていた。すると、蔵の床下から良藤が発見されたという。家族の者が良藤を助け出すと、床下の穴から何匹ものキツネが逃げていった。
良藤は館での13年間の暮らしを語ったのですが、実際は13日しかたっていなかったという。(今昔物語)
キツネが浮気者の亭主を化かした話だが、これは「新解釈」が可能である。
つまり、
キツネたちは良藤の奥さんから頼まれていた!
この奥さんは京都から嫁入りしてきていたと考える事もできる。ここがミソであるな。
良藤の浮気癖を知っていた奥さんは京都に里帰りする前、キツネに依頼して騙してくれるように頼んだ。そうやって人間の女と本当に不倫するのを防いだわけである。
恐るべし、京女の知恵!
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・410】