キツネとタヌキはどちらが悪い(その2)
~油断大敵、キツネの化かし~
キツネとタヌキといえば忘れてはならないのが「うどん」である。
「きつねうどん」はどこでも同じ。しかし「たぬき」は違う。
京都で「たぬき」と言えば「きつねのあんかけ」だが、京都の「きつねそば」が大阪の「たぬき」になる。これが東京に行くと「揚げ玉」(京都で言う「天かす」のこと)をトッピングしたのが「たぬき」で、同じものは京都では「ハイカラ」都言う。
うどんになるとキツネは全国共通でもタヌキは違うと。日本全国、行く先々で全然違う「たぬき」を食べる事になったら何かこう、化かされているような気になるかも。
ちなみに、京都では西本願寺の近くにある大阪屋さんが色々な「たぬき」を食べさせてくれる。
余談はさておき、キツネとタヌキの化かしあいというか、両者が人間相手にどんな事をしてきたかを話題にしよう。
キツネとタヌキではキツネのほうが狡猾で、ユーモアのセンスにも欠ける。落語の「七度狐」はキツネの仕返しだが、流石は落語で、やることが面白い。でもこれは例外といえよう。
『太平百物語』の中に次のような話がある。
伊賀の国の商人が定期的に京の都にやって来て商いをしていた。この商人、都の娘と恋仲になり晴れて結婚することが出来たのである。
ところが妻となった娘はまもなく病を得て死去。落胆した商人は後を追おうとしたのですが母親に引き止められた。
そんなことがあってしばらくの後、この商人の部屋で話し声がする。会話は毎晩続き、商人は次第に痩せ細って行った。
心配した母親は京の高僧に相談。高僧が伊賀の国まで来て商人の様子を見ると、「亡き妻の霊が憑いているように見えるが、どうもおかしい」
と言う。何か釈然としないものがあるのだな。
そこで商人に御符を渡して今度亡霊が来たらこの御符を見せろと言った。
その夜、商人の元に来た亡霊にその後附を見せると、亡霊はひるんだ。すかさず高僧が部屋に入ってきてお経を唱えたら「妻の亡霊」はキツネの正体を現して逃げ去ったという。
何とキツネが幽霊に化けていた。かなり凝ってますね。ただし、このキツネが何故そんな事をしたのかという「動機」は不明である。
考えられるのは
①落ち込んでいた商人を慰めようとした。
これなら「ごんぎつね」タイプになる。でもこれだと商人が痩せ細って行ったのは何故かということの説明がつかない。
②キツネが商人に恋をして、死んだ奥さんに化けて出てきた。
これもありそうだが、でもこの場合なら「奥さんの幽霊」に化けなくても「死んだ奥さんそっくりの女性」に化けたほうが合理的だろう。
③幽霊の犯行に見せかけて商人を殺そうとした。
そう、これはやはり「キツネの仕返し」だった。
この商人はどこかで(故意か過失かは別にして)このキツネの恨みを買っていた。そこでキツネは奥さんが亡くなって落ち込んでいる商人のところに「奥さんの幽霊」に化けて現れ、「幽霊に取り憑かれて殺された」ように見せかけてこの商人を殺そうとしたのである。キツネの痕跡を残さない完全犯罪を目論んだ。
うん。これしかない、と思う。
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・405】
2012年6月5日に第一回「あきれカエル? ひっくりカエル?」から数えて、8年。
本コラムは、連載400回目越えとなりました。ご購読感謝いたします。