漢字ミュージアム改革私案
~いっそ遊びに徹したらどうか、という話~
さて、私はこのところ漢字ミュージアムに対して批判的なことや揶揄することばかり言ったり書いたりしてきたようである。
しかし文句ばかり一人前で何もしないというのでは私のほうが批判されるだろう。
そこで、漢字ミュージアムの将来のために、この施設をどのように変えたらよいのかを考えてみた。
まず漢字能力検定協会は漢字ミュージアムの立位置をはっきりさせなければならない。
漢字に関する難しいことを分かりやすく解説するのか?
身近な漢字の背後にある物語を楽しく説明するのか?
どちらが良い悪いではなく、どちらかひとつにするのでもなく、軸足をどちらに置くのか?
そして何より重要なのは、漢字ミュージアムにおける漢字というのは、あくまでも日本語という枠組みの中で考えられねばならない、ということ。
漢字ミュージアムの基本にあるのは日本語である!
漢字ミュージアムの来館者が「学ぶ」のは中国語としての漢字ではなく、日本語の一部としての漢字である。日本における漢字文化の発展というのは、日本語の発展に連動するものなのだ。ここが分かっていないと壁際につまらない「学術的」文章を書き連ねただけのつまらない施設になってしまう。
それでは、漢字を通じて日本語と日本文化の面白さを楽しむにはどうするか。
たとえば「日本」の読み方。
これは「ニホン」か「ニッポン」か?
これだけでユニークな変遷史を語ることができる。
古代中国では「日」の読みは「ジツ」(元日や祝日のジツ)で、「本」は「ポン」(実際はポァンとかプァンに近かったようだが)だった。だから「ジッポァン」というのが古代の発音で、これが西洋に伝わるとその国の言葉の訛が混じり、英語では「ジャパン」になったと。マルコ・ポーロが目指した黄金の国の「ジパング」も同様。
では日本ではどのようにして「ニホン」という読み方が登場したのか。その紆余曲折を楽しく語ってこそ漢字ミュージアムではないだろうか。
また、今の日本はいわゆる「カタカナ語」が多い。氾濫していると言ってもよい。これを全部漢字に変えてしまったらどうなるか。
分かり易くなるのではなく、やはり分かり難いままである。
漢字もカタカナも日本語をより良く、より分かり易くするための道具である。その道具を臨機応変に使い分けると、日本語が豊かになるわけだ。このあたりも、漢字がテーマだからカタカナ・ひらがなを無視するのではなく、日本語という基本的な枠組みの中で漢字の位置づけをしてもらいたい。
さらに、今でも「アルファベットは26文字なのに漢字は数え切れないほどある。だから英語のほうが簡単だ、漢字は小学生に負担だ」と言う人がいる。
漢字ミュージアムはこれに反論しなければならない。
まずこれは比べ方が間違っている。
アルファベット26文字と漢字を比べてはいけないのである。アルファベットと比べるのなら、いろは48文字である。これなら公平。
さらにアルファベットには組み合わせにより発音が違うものがある。 read は「リード」だが同じ ea でもbread は「ブレッド」であり、「ブリード」ではない。Break は「ブレイク」である。このように同じ組み合わせでも発音が違うのである。これが綴り(スペル)の難しさ。英米人は日本人が漢字を忘れるのと同じ理屈で綴りを忘れる。だから英語が簡単で日本語が難しいということにはならない。
また、日本の子供はカタカナ・ひらがなの他に漢字を覚えなければならないから負担が多いというもの嘘。
欧米の小学生は漢字を覚える必要がない代わり、ラテン語とギリシャ語を学ばねばならない。でないと学術用語が覚えられないから。
たとえば欧米の小学生が ornithology と聞いても何のことか分からないが、漢字を教えてもらう日本の小学生なら「鳥類学」と見たり聞いたりするだけで「鳥に関する勉強をすること」だと分かる。漢字というのは中々便利なのだ。漢字ミュージアムはこの辺りをもっと啓蒙していかねばならない。
では、その啓蒙のためにはどうすればよいのか?
答を言おう。ズバリ
漢字ミュージアムは対象者を小学生にせよ!
大人ではなく、子供相手の施設にするのである。そして小学生は親に連れられて来る。そこで親(大人)も啓蒙するのである。
前回でも紹介したが、2階の遊び場は結構楽しめる。だからその部分をもっと充実させて、小学生が楽しみながら漢字に親しめるようにする。
漢字ミュージアムは漢字ワンダーランドになる!
その上で、「ここに来たら漢字のことなら何でも分かりますよ」という本来のミュージアムとしての機能も高めていくのである。
大学の先生を呼んで漢字を学ぶ講演会をやるだけではなく、落語家の桂小春団治を呼んで新作落語の秀作「漢字悪い人々」を実演してもらえ。それどころか、漢字をネタにした新作落語の委嘱作品を作ってもらってはどうか。
こうやって漢字の面白さ、ひいては言葉の面白さを積極的に発信していかねばならない。
日本の漢字文化は日本語の分野であり、日本語でコミュニケーションをとる(おお、カタカナ語が出てしまった!)うーむ、日本語で意思の疎通を図る手段のひとつなのである。漢字ミュージアムの役割は漢字を広めるだけではなく、日本語を高めていくことである。
国際化とは日本人が英語を話せるようになることではない。日本語を話せる外国人が増えることなのだ。
日本の漢字文化を果敢に発信していくこと。これが漢字ミュージアムの仕事で、その役割は重大なのである。どんどん研究して、漢字の面白さを広めて欲しい。
ところで、ミュージアムというからには学芸員がいるはずなのだが、何人ぐらいいて、どのぐらいの研究費をもらっているのだろうか。
こっちも気になる。
まあ、それはそれとして、楽しめる漢字ゲームを任天堂にでも頼んで、もっと作ってもらってはどうかな。
【言っておきたい古都がある・195】