ああ勘違い
~何事も注意が肝心ということ~
人間誰しも勘違いをすることがある。それ自体はそんなに恥ずかしいことでもなんでもないのだが、その勘違いが度を越すとお気の毒な結果を招くこともある。
『古今著聞集』の「巻12偸盗第19」の話。
ある家に強盗が入った。法師が弓矢を射る役をやらされたのだが、季節柄、よく熟れた柿が落ちてきて、たまたまこの法師の頭に当たってしまったのである。
法師はどうしたのかと思って手で頭を探ると、何やらぬるぬるとしたものが広がっている。
あ、頭を射られた。と、勘違いしたこの法師、同輩に「頭をやられた。もう助からないだろう。この首を打ってくれ」
と頼んだ。
頼まれた同輩も相手の頭を探ると赤いぬるぬるしたものがべったりと付着している。それを血だと勘違いして「このぐらいなら大したことはない。すぐに手当てをしてもらおう」
と、法師を担いでいこうとすると、この法師は
「いや、もうダメだ。早く首を打ってくれ」
と、さらに頼むので、同輩は言われたとおり首をはねた。そしてその首を法師の妻子の元に届けたのだが、妻が首を確認するとどこにも矢の跡などない。そこで届けてくれた同輩に
「胴体に傷を受けたのですか」
と尋ねたら、同輩は
「いや、頭のことばかり申しておられましたが」
と不思議がっていた。
まあ、強盗騒ぎの最中に頭に熟れた柿が落ちてきたというのもお気の毒だが、本人も同輩も潰れた柿と血糊の区別もつかなかったのか。
もちろん、電気なんてない時代のことだから暗くて分かり難いというのは理解できるけれども。
勘違いで命を落としてしまったのでは洒落にもならないのだが、こんな話が他にもある。
もうすぐ12月で、忠臣蔵の季節になるが、その中で有名な「お軽勘平」のエピソード。
勘平さんは刀傷と鉄砲傷の区別がつかなかったために死ぬ羽目になるわけだ。これも勘違いの悲劇である。
同じ勘違いでももう少し笑えるエピソードも紹介しよう。
源平の動乱のとき、富士川の戦いというのがあった。これは平家の陣地に夜襲を掛けようとした源氏の軍勢が抜き足差し足で行軍していると、たまたま水鳥のねぐらになっていたところに足を突っ込んでしまった。すると何百羽という水鳥が驚いて一斉にバタバタバタと羽ばたいた。その物凄い羽ばたきの音を聞いた平家の軍隊が「源氏が攻めてきた」と勘違いしてみんな逃げてしまったと。
戦わずに勝敗が決してしまったという世界史上まれな「戦い」になった。
しかしまあ、これは笑い話にもなるから割りとマシかもしれない。
で、これはもう不覚としか言いようがないのだが、先ごろ私も勘違いをしてしまった。それも、あろうことか2回である。
一発目はツアーのレジュメをコピーしたとき。
コンビニのコピー機に500円玉を入れて10枚コピーした。当然おつりが400円あるものとばかり思っていたらゼロ。500円すべてが取り込まれてしまっている。これは機械の不具合に違いない。
というので店員に声を掛けて見てもらった。すると何も問題はないようだという。
そんなはずはない。私は確かに500円玉を入れたのだ。そして1枚10円のコピーを10枚撮ったのだから、おつりが400円出なければおかしいではないか。
さらに点検してもらうと店員が「これ、カラーコピーの設定になってます」
とのたまう。
「え?」
よく見ると私は白黒ではなくフルカラーでコピーしていたのである。それなら1枚50円だから10枚で500円だわ。コピー機は何の疑問もなく文字だけのレジュメをカラーで(!)コピーしてごく普通に500円を取り込んだわけである。
すべて私の勘違い。今までこんな見落としなんてしたことなかったのに。
そのときのコピーをお客さんに渡すとき、
「これはフルカラーでコピーしてあります」
これだけならまだ救いがあるけど、そのあとでまた1つ、やらかしてしまったのである。
先日、神戸の元町に行った。当然JRの切符はチケットショップで昼特を買ったわけであります。
行きはよいよい帰りはこわい。
いつものように帰りも自動改札に昼特切符を入れたら、なんと改札に通らなかった。「この切符は使用できません」と出るのである。
今日買ったばかりで有効期間にも問題はない。これはおかしい。
というので駅員に「通らないのはおかしいではないか」と聞いたら、切符を見てた駅員が、「今日は平日です」
と、ボソッとした声で言った。
【言っておきたい古都がある・210】