怪異のカエルはガマガエル(その3)
寛喜3年(1231)のこと、蒸し暑い夏のある日、大炊御門通の堀から異常なまでのカエルの鳴声がする。近所の人が何事かと堀を覗いてみると。。。
いるわいるわ、何千匹ものカエルが集まって食い合い(共食い)をしている。
ある人が酔狂にもヘビを捕まえてきてカエルの群れに放り込んでみると、カエルは委細構わず戦いを続け、ヘビは逃げて行ったという。
この噂が広まると何十人もの人が集まってきてカエル合戦を見物した由。
『古今著聞集』が伝えているが、これは怪奇現象ではなく普通(?)にある出来事である。保延4年(1138)、仁平元年(1151)、応永15年(1408)にも同じことがあり、多くの人が見物に集まったという。また、江戸時代後期の安政年間には大坂の船場で同じことがあったとか。
しかし、みんなこれを見て「不吉だ」とか恐れるのではなく、面白がって見物していたというのが良いですね。
今同じことがあれは、テレビのニュースで見ることが出来るだろう。
しかし寛喜3年のときは、わざわざヘビを捕まえに行った人までいたわけで、ヘビなんてそう簡単に捕まるものでもないと思うし、このカエルの食い合いというのはかなり長い時間にわたって行われていたことになる。
こうなると、怪異よりも人間の好奇心のほうが怖くはないか。カエル同士が食い合っているのを面白がって見物するなんて、妖怪変化よりも人間のほうがよっぽど怖いかも。
インターネットではカエルがカエルを食べる動画もあって、これを「共食い」と称しているが、それは元々カエルを餌にしているカエルのようで、ペットショップでパフォーマンスとして見せているようだ。池などで大群になったカエルが激しく共食いするのとは違う。
ところで、カエルが出てくる夢は吉夢だそうである。
カエルそのものが幸運と金運を呼ぶ生き物らしく、基本は「金かえる」という駄洒落らしいが、夢に出てきたカエルを食べると、つまりカエルを食べる夢を見ると、これまた縁起がいいという。
やはりどう考えても人間のほうが怖いな。
奇しくも、この連載の第一回目は「あきれカエル、ひっくりカエル」で、そこでは狛犬ならぬ狛カエルも紹介した。連載400回を経て原点に戻ったような気がする。
何はともあれ、ご承知のような状況下、今年も残り少なくなり、初詣も行けないのではないかとご心配の向きもあるが、前倒しで新年のお参りに行く「幸先参り」が喧伝されている。こういう対応が出来るうちは人間の世の中も大丈夫だろうと思ってしまうのである。
(怪異のカエルはガマガエル・完)
【言っておきたい古都がある・418】