嫌な相手を消しましょう(前編)
〜縁切り神社の絵馬に見る人間の情念〜
清水寺にある地主神社は縁結びだが、東山の安井金毘羅宮は縁切りである。男と女の縁を切るのでお参りする人も人間に角が立っているからなのか、鳥居が四角い。これだけでも珍しい。
さて、この神社の絵馬を見ると人間の持つ情念の大きさが如何に凄まじいかが良くわかる。
まず、伝統的2大勢力というのがある。
ひとつは「Aさんが奥さんと別れて私と一緒になってくれますように」という愛人の奉納。
もうひとつは「夫が愛人と別れて妻である私の元に帰ってくれますように」という奥さんの奉納。
ところが、近年では時代を反映して、「妻と離婚できますように」という旦那さんの奉納まである。
だいたいこの手の神社は社会的地位の低かった女性が止むに止まれずお参りする、というのが定番になっている。旦那がここにお参りに来るという事は、わが国における男女平等は、女性を男性の位置まで引き上げるのではなく、男性を女性の位置まで引き下げる事によって達成されたのであろうか。
ところで、ここの縁切りというのは何も男女の仲に限った事ではない。
たとえば「貧乏と縁が切れますように」とか「ギャンブルと縁が切れますように」というのもあれば、「セクハラの〇〇課長消えろ」というのもあった。
他にもカウンターパート同士で奉納しているものでは「姑が早く永眠しますように」という絵馬の近くに「鬼嫁がいなくなりますように」という絵馬のあったのを見たことがある。
喜劇的なものでは「〇〇株式会社の〇〇社長が眼を覚まして事務員〇〇〇〇との不倫をやめますように。従業員一同」というのも、マジで、あった。
このケースではバレテいないと思っているのは当人同士だけで、周りはみんな知っているのである。
他に多いのは近隣トラブル。「〇〇一家が引っ越しますように」というのがある。
微笑ましいのは「お母さんの病気がなおりますように」という子供の奉納。お母さんが病気と縁が切れるようにとの願いである。
浪人生活と縁が切れて「受験に合格しますように」とか、独身生活と縁が切れて「素敵な彼女(彼氏)と縁が結べますように」というのもある。
もちろん、「今の彼氏と別れて素敵な男性に巡りあえますように」というのもある。
最近良く目に付くのが「娘が今付き合っている人と別れさせてください」もしくは「息子が今付き合っている人と別れさせてください」というお母さんの奉納である。
もう何年か前の話だが、ここにストーカーの被害を訴える絵馬がズラリと並んだことがある。その後、埼玉県だったかで殺人事件が起きてストーカー防止法が出来ると、それらの絵馬がスーッと消えていった。最近目に付くのは鬱病と縁が切れますようにという絵馬。
こういう神社の絵馬というものが時代を映すことがあるのだ。
さて、来週は実際にどんな絵馬がかかっているかをご覧に入れようと思う。
ちなみに私が見た中で最も凄まじかった絵馬は、子供の字で書かれた
「お父さんが麻薬と縁が切れますように」
【言っておきたい古都がある・14】