海外で活躍する日本語たち(後編)
~意味が変わることもある~
さて、日本語がそのまま海外で通用するのは嬉しい限りだが、中には不名誉なものもあるのは仕方あるまい。
古い話だが「総会屋」というのも日本語そのままで英米に紹介された。「カミカゼ」は言うまでもないだろう。「ヤクザ」はアメリカ映画のタイトルになったこともある。主演はロバート・ミッチャムと高倉健だった。
ざっと眺めてみるだけで、「こんなのがそのまま英語圏で通じるのか」と思ってしまう日本語として、今や常識とも言える「ハラキリ」のほかに過労死、引きこもり、オタクなどがある。
しかし、過去10年間でオックスフォード英語辞典(OED)に収録された日本語でもっともユニークなものは
Hentai
Pronunciation: /hɛnˈtʌɪ/
noun
[mass noun]
a subgenre of the Japanese genres of manga and anime, characterized by overtly sexualized characters and sexually explicit images and plots.
Origin:
1990s: Japanese, literally ‘abnormal, perverted’
ではなかろうか。
分かりますか? 「ヘンタイ」つまり「変態」ですよ。
日本人はそんなに変態なのか? 確かに、コンビニに行けばヌード本が平然と並び、巨乳ポロリンコ(おっと、こういう表現が hentai なのかもしれない)の表紙が堂々と正面を向いたりしてもいる。この単語がそのままOEDに載るのもむべなるかな。
ところがこの言葉、OEDには「変質者」という本来の意味ではなく、全然違う意味が記されているのだ。
何と、hentai とは「ポルノ漫画」のことになっているのである。
ポルノ漫画は変態か。。。まあ、分からなくもない。
もっとも、このような現象は別に珍しいものではなく、日本語の中に入っている外来語にも本国の意味とは変わってしまっているものが多々ある。
「サービス」というのは本来は対価を受けて提供するものだが、日本語で何の注釈もなしに「サービス」と言えば「タダ」という意味になってしまう。「サービスしときます」と言ったら「無料にします」ということだ。
他にも日本で「ペンション」と言えばこじんまりとして洒落た宿泊施設だが、普通に英語で pention と言ったら年金である。
日本ではゴム印のことをスタンプと言うが、英語で stamp は切手のこと。
余談だが、ニコラス・ケイジが主演したあるサスペンス系映画で、差出人の書いていない謎の手紙をチェックして
No stamp.
と言う台詞があったが、字幕ではこれを「消印が押してない」と訳していた。
これは誤訳。「切手が貼ってない」というのが正解。
このように、外来語というのは本籍地と現住所とでは似ても似つかない意味になることがある。
余談の上に予断を重ねるが、日本で「飯店」と言えば中華料理屋だが、中国語では「ホテル」のことだし、「湯」というのは中国語だと「スープ」になる。
つまり、銭湯の暖簾に「湯」と書いてあれば、人間でスープを取っていることになるな(って、そんな訳ないか)。でも朝鮮半島では豚の頭を丸ごと使ってスープを取るし。。。
閑話休題。
英語圏に進出した日本語で一時期取りざたされたのは nintendo である。
ご存知「任天堂」だが、これは会社名ではなくゲーム機一般を指す普通名詞になってしまっていた。まあ日本でも化学調味料は何でも「 味の素」だったりしたのだが。
このように、意外な意味の変化をきたした言葉は他にもある。
「 ゴジラ」といえば怪獣だが、OEDによれば「巨大・強大」とのこと。このあたり、日本語で言う「マンモス」と同じ感覚かもしれない。
以外なのは「少年・少女」で、英語でも boy に girl があるので借用語の必要などないではないかと思うのだが、やはり意味が変わっていて、shonen と shojo というのは、それぞれ「少年漫画」「少女漫画」の意味なのだという。
やはり漫画は強し。
「コスプレ」というのまでそのまま海外で受け入れられている言葉になっているが、今後どのような言葉が海外進出するのだろうか。
もちろん、意味が変わってしまうのもあるだろう。たとえば、これからずっと先、「 アベノミクス」というのがOEDに収録されたとき、その意味は
「大阪の阿倍野でお好み焼きミックスを食べる」
というものになっているかもしれないのである。
【言っておきたい古都がある・85】