四千年の知恵(その2)
~傍若無人とは?~
人のことなどまるで気にかけず、自分勝手に振る舞うこと。
『史記』の「刺客列伝」にある。
中国の戦国時代、衛の国の荊軻(けいか)は酒を好み、燕の国にやってくると、毎日のように高漸離(こうぜんり)と街中で酒を飲んだ。宴もたけなわになると、高漸離は筑(弦楽器)を鳴らし、荊軻はそれに合わせて歌い、共に大いに楽しんだ。やがて互いに泣き出したりもした。まるでそばに誰もいないかのようであった(傍に人が無い若とし)という。
それほど粗暴な人だったようだが、この人、秦の始皇帝を暗殺しようとした。
ま、結局は失敗したのだが。
『史記』にあるエピソードであるが、『戦国策』にもあり、こちらで読むとその暗殺未遂事件はリアルである。人を殺すというのは映画やドラマでやっているようなものとは全然違う。それが良く分る。
ただ、この荊軻が暗殺に出発する前に詠んだ歌は有名。
「風蕭蕭兮易水寒
壮士一去兮不復還」
風蕭々(しょうしょう)として易水寒し。
壮士ひとたび去って復(ま)た還(かえ)らず。
この後半部分が良く引用された。
で、中国4千年の知恵たる傍若無人なのだが、生きた伝統として現代でも受け継がれている。
今年の4月、中共(中華人民共和国)は南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の一部に船団を集結させ威嚇的な行動に出た。6月9日にはこれまた南シナ海でフィリピン漁船が中国船に衝突され沈没したが、中国船は漁船の乗組員を救助しなかった。
フィリピンのドゥルテ大統領は就任以来、南シナ海問題を棚上げにし、中共との友好関係を演出してきたが、その結果がこれらの傍若無人な行為である。
さらに中共はASEAN加盟国が地域外の国と南シナ海で軍事演習をするときは中共の事前承認を受けるように求めているが、こんなものを受け入れたらそれで「南シナ海は中共のもの」という口実を与えることになる。ASEAN加盟国の主権を無視する傍若無人な要求であろう。
スリランカは中共の資金で湾港建設をしたが、借りたお金の返済が出来なくなると、中共は租借権を要求した。相手に返済能力がないと分かっていてお金を貸し、返済が滞ると土地を召し上げるという傍若無人なやりかたである。
さらに日本では、尖閣諸島周辺の日本領海に中共の船が侵入を繰り返しており、今年1~4月は毎月3回、5月は4回に増えた。6月19日までに侵入したのは延べ70隻に上り、すでに昨年1年間に並ぶ。接続水域の航行は4月12日から6月14日にかけて過去最長の64日間連続を記録した。
新聞は「領海侵入」と書いているが、正しくは領海侵犯だろう。これもまた傍若無人である。
その上、平成29年(2017)に制定された中共の国家情報法の第7条では個人や企業は政府の情報活動には協力しなければならないと定められているし、同法第14条では中共の情報機関が国民に協力を要請できると定めている。
つまり、何の悪意もない一般の中国人が日本企業に勤めているとして、その人に中共の情報機関からその企業の情報提供を求められたら断れない。これも傍若無人であろう。
このように中国四千年の知恵は現代でも息づいているのである。
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・342】