未だ叶わない 糺の森での葵祭の京懐石
永らく思っていて叶わないことが多々あるが、そのひとつが葵祭の日に糺の森で食事することだ。
葵祭の日じゃ予約もなかなか叶わないかもしれないが、電話を入れないことには始まらないのも確かな話ではある。
葵祭二ケ月前の3月の料理を頂いた時の品々から、葵祭の日の懐石膳がどうなっているか想像するしか仕方がないのである。
まず、待合の部屋に腰を下ろし、前に置かれたタバコ盆を眺めていると、お茶が出る。
支度と顔ぶれが揃うまでの間、待合の間で「お薄一服」となる。
待合の部屋に飾られた生け花や掛け軸、置物に目をやっていると、ほどなくお菓子が運ばれる。
この日は二種のお菓子が用意され、交互に置かれていった。
小生はどちらが来るのかなと思って見ていた。秘かにきな粉を期待しているので、隣席の人にきな粉や大納言など、甘味の話を持ちかけ、あわよくば交換して貰えるよう根回しの会話を弾ませた。
一服いただくと、場所を替え、食事に入る。
乾杯の発声の後、次々と運ばれてくる。ここは男衆さんである。
これは確か白酒か、食前酒が置かれ、八寸に始まった。
蛤を模した器は大ぶりで、迫力がある。中が気になり期待は膨らみ、さっさと開けてしまう。
早速、「一献」と、銚子をもって勧められる。
食べることと写真に気が向いていたので、杯を返すのも煩わしいが、そうもいかない。
蜜につけられたグリーンピースも格別である。見慣れた何気ない豆そのものも味わいが上質である。
すり身のしんじょう、添えられているのは土筆とどんこ椎茸。そして筍の煮物がくる。
旬のものが揃い、あるいは出あいものがあると嬉しくてしょうがない。
まさか、もう終わりではと・・・・金糸玉子の下はちらし寿司である。
襖の向こうから、香ばしい匂いが漂ってきた。
稚鮎が運ばれ、火鉢を抱えた男衆さんが、稚鮎の追加を置いてくれる。なかなかの演出だ。
ちらしの器はちゃんと季節の花が染め抜かれていた。
秋なら紅葉に松茸ごはんか栗ごはんとなるのだろうか。葵祭の皐月は何だろうか・・・。
糺の森にいるのだから、菖蒲や杜若よりは双葉葵であってほしい。
香の物には菜の花が盛られているのも常套である。
なんだコレッ!
紐を解いてゆくと、ぜんまいがのっている筍ごはんである。筍のほかに蕗も混ぜられている。
美味い!
蕗の少し渋いアクが美味くごはんに馴染んでいる。
そしてデザート。
鱧対決にて、卓越した鱧切の腕は審査員を唸らせ、和の鉄人森本正治に完勝する。