観光立国と京都と(その5)
~それでは、どうすればよいのか~
さて、前回で「おもてなし」のキーワードは「ふれあい」だというのが明確になった。なんといってもサルと触れ合える嵐山モンキーパークいわたやま、さらにシカと触れ合える奈良公園がベスト30に入っているのだから、「ふれあい」とは人間だけのことではないのである。
昨年、京都市を訪れた観光客数は5162万人で過去最高を記録し、外国人宿泊者も100万人を突破した。
この勢いは止まるところがないようだが、その反面、今年1月~6月の半年間に京都市内で起きた犯罪件数は9678件で、昨年同期よりも約2%増加した。京都府下で発生した犯罪の7割が京都市内で起きている。
観光のマイナス面も着実に顔を出しているようだ。
NHKの大河ドラマの舞台になった地域が放送の年に大量の観光客であふれ、地域住民とトラブルを起こすのは周知の事実。
ドラマが終ると「宴の後」で舞台の地域が悲鳴を上げるという話も良く聞く。
本当に観光立国を目指すのなら、観光のマイナス面にも目を向けねばならないのである。
◎観光と犯罪について。
◎観光と環境破壊について。
◎観光と地域住民との軋轢について。
以上の三つを避けて通ることは出来ない。
京都市は京都府警と協定を結んで「市民ぐるみ」で防犯に取り組むことを発表した。
良いことには違いないけど、「市民ぐるみ」と言って勝手に巻き込まないでほしい、という人もいるだろう。
そう、だいたい「オールジャパン」とかいって、「異を唱える奴は許さん」みたいな言われ方をすると、誰でもしらけるのではないか。私なんかオリンピックも高校野球も特に興味がないから見たことないし。
「おもてなし」を強要できるか? 静かな生活環境を望んでいる人に、「おもてなし」だからと観光事業に参加させるか? 「おもてなし」のために必要なホテルを建てて緑や町並みを破壊できるか?
色々と悩ましい問題がある。
さて、ではどうすればよいのかだが、前回の外国人が行って良かったという名所のリストに大阪城や名古屋城は無いが松本城は入っている。つまり本物が認められるということ。
姫路城は工事中のため落選したが、完了すれば次回はベスト30に入るのは間違いない。
そこで、「本物を残す」というのはどうすればよいのか?
お城(正確には「天守閣」だろうな)や寺院などの建築物は昔に建てられた物をそのまま維持すればよい。これは明快である。
では祭などはどうか?
やはり本来の意味を大切にしなければならない。
平安建都1200年の年、京都市は大晦日に大文字の送り火をやると言った。そして反対意見の人たちを「こんなことは今回限り」と説得して、本当に点火してしまったのである。
五山の送り火は単なるイベントではない。宗教的な意味がある。それを無視して「大晦日にやります」というのはトンチンカンもはなはだしい。
でも、やったのですね。
こんなことが凋落の第一歩になるのである。
最近、「京都は大人のテーマパーク」というフレーズを聞いた。
こんな言葉が平然と広まったりすれば迷惑だ、と思う人がたくさんいれば京都の将来も安心なのだが。。。
数年前、京都市が鉾町に祇園祭の山鉾巡行を日曜日に出来ないかと打診したことがある。もちろん、鉾町の人たちは拒否したのだが、このような打診は祭を単なるイベントとしてしか認識していない限り出来るものではない。
その後、御用学者による「祇園祭の巡行を11月にやったことがあるんですよ。決して7月17日じゃあなかったんですよ」というプロパガンダもあったが、今は下火になっているようである。いつかまた出てくるのかもしれないが。
(注・確かに明治14年の巡行は11月に行われているが、これはその年の夏に京都でコレラが発生したため、祇園祭が延期を余儀なくされたのである。御用学者の恣意的な主張に惑わされてはいけない)
そろそろ纏めなくてはならないだろう。
観光立国と京都と。長々と考察してきた結果として。
如何になすべきか。
お上にお願いしたいこと。
もちろん全国的な視野で考える。
でも地域に密着して活動する。
お役人様が大好きな英語で言えば Think globally Act locally である。
何年までに何千万人、などという数を追うのはもう止めてもらいたい。
でもって、先に書いたように観光のマイナス面にも目を向けよう。
観光客のみなさんは?
どんなに観光化された行事でも祭祀としての尊厳は今なお存在するというのを忘れないようにしよう。決してテーマパークのイベントではないのである。
私のような観光業者は?
うーむ、他人には偉そうなことを言えても自分のことは分からない。
ただ、お客さんのほうにマナー違反があれば、はっきりと「ダメよ」と言えるような業者でありたいとは思う。
お客さんへの説明は
簡単で、分かり易く、正確に。
その上で面白ければ言うことなし。
そして京都や日本が
一度は行ってみたい。
行って良かった。
また行きたい。
と思ってもらえるようになれば幸いである。
【言っておきたい古都がある・95】