小学校で英語を教えるなんて止めてしまえ、という話・その1
~英語力は文化の理解力を意味しない~
さて、新しいパソコンにもようやく慣れてきて、今回は当初、前回の続編で平成25年の京都の十大ニュースを旧正月に合わせてやろうと思っていたのだが、突然、時事ネタが飛び込んできたので予定を変えることにした。
京都市が小中学校での英語教育を強化するという。報道によると「2020年の東京五輪・パラリンピツクの開催に向け、京都の魅力を英語で伝えられる子供を育成する取り組みを始める」のだそうで、それによって「国内外の文化を理解し、温かく来日外国人を迎える「おもてなし」の心をはぐくむ」のだそうである。
国内と国外の文化を一緒にしてはいけないだろう。
国内、つまり日本の文化を理解するのに必要なのは英語ではなく日本語である。小学生に必要なのは日本語、つまり国語の教育であって英語などやめたほうがよい。ろくな事にならない。
実例を挙げよう。
いささか旧聞に属するが、ベテランの会議通訳者から聞いた話。
海外帰国子女が会議通訳者になりたいというので面接した。母親が「英語で喧嘩でも出来ます」と言うぐらい流暢であったと。
ところが実際に通訳をさせてみると全然ダメだった。
日本語が無茶苦茶であったと。
話す言葉が日本語の体をなしていない。また、話者の日本語に訛(たとえば大阪弁とか)があれば、それでもう日本語の意味が分からなくなってしまう。もっとも、英語のほうは南部訛のある英語でも意味が分かったらしいのだが。
どんなに英語が達者でも日本語が稚拙であれば会議通訳者としては(すぐには)使い物にならないのである。
次は私の実体験。
これも数年前の話になるが、あるシンポジウムでの講演に、これまた日本よりもアメリカで暮らしているほうが長いという若い人が通訳を務めた。
アメリカ人講師の挨拶とスピーチの冒頭部分が終わり、通訳の出番になった。
その通訳の開口一番、何と英語が飛び出してきたのである。
通訳なのだから英語のスピーチを日本語に直してもらわなければならないのに、英語でパラフレーズしてどうする。
さすがにご本人もしばらくしてから気がつき、「あ、すみませ~ん」と平謝りだったが。
その後、どうにか英日の通訳は無事に進んだと思いきや、スピーチが進むにつれて通訳の日本語が短くなって行ったのであった。
つまり英語の長さに比べて日本語が半分ぐらいになり、さらに少なくなっていった。
どういうことかというと、その人は英語の内容は全て理解しているのである。しかし、それを日本語でどう表現してよいのかが分からなかったのだ。
これが幼いころから英語に慣れ親しんだ人たちの実態である。恐らく今でも大して変わっていないだろう。
何も英語が不要だというのではない。日本語を優先せよと言っているのである。
今回の京都市の取り組みの中でも酷いのが「京都の魅力を発信してもらうには、地元が誇る文化や歴史への理解も欠かせないため、中学生を対象に京都検定受検の補助制度も創設」すること。
ペイパーテストで高得点を取れる者が文化を理解しているのではない。
単に事項を暗記してそれを英語で言えるだけの中身のない子供を増やすだけではないのか。
たとえば、西陣織は京都の伝統文化ということを英語で得々と語れる子供が、自分で着物を着ることが出来ないとすれば、それで文化が受け継がれているといえるのか。
まあ、これは中学生が対象だそうだから今は脇に置いておく。
京都市教育委員会が目指しているのは「子供たちが京都の歴史や文化を、来日する外国人に英語で発信する」ことなのだそうである。
それなら英語より先に京都の文化そのものを学ばせなければいかんのではないか。そのたるに必要なのは日本語だろう。
だいたい、小学生が外国人に英語で京都の文化を説明して、外国人が「Oh!」とビックリして喜んでくれたらそれで「グローバルな人材が育成」出来たと悦に入っているようでは考え違いも甚だしい。
何がどう考え違いなのかは、来週に続く。。。
【言っておきたい古都がある・69】
[参考引用]
中学生「京都検定」に市が補助…東京五輪見据え
(2014年2月6日 読売新聞)
2020年の東京五輪・パラリンピックの開催に向け、京都市教委は古都・京都の魅力を英語で伝えられる子どもを育成する取り組みを始める。
すべての市立小中学校で英語に親しむ「イングリッシュ・シャワー」の実施に加え、英語検定や京都検定挑戦のための補助制度を創設。国内外の文化を理解し、温かく来日外国人を迎える「おもてなし」の心を育む。
小学校の英語教育については、文部科学省が開始時期を現行の5年生から3年生に引き下げる方針を示し、東京五輪が開かれる20年の全面実施を目指している。こうした動きを追い風に、市教委は子どもたちが京都の歴史や文化を、来日する外国人に英語で発信する取り組みを強化することにした
小中学校で一貫した英語教育のあり方を研究するため、中学校区を単位に拠点校を指定。2014年度は16校程度を想定し、将来的には全校に広めていく。
日常的に英語に親しむ取り組みとして、小中学校などで「イングリッシュ・シャワー」を実施。校内放送で洋楽を流すほか、外国語指導助手(ALT)による文化紹介や語りかけを積極的に行う。
小学6年生を対象に、京都まなびの街生き方探究館(上京区)で英語を使った職業体験も拡充。中学生らには、英語検定を受検する際の補助制度も設ける。
京都の魅力を発信してもらうには、地元が誇る文化や歴史への理解も欠かせないため、中学生を対象に「京都検定」(京都商工会議所主催)受検の補助制度も創設。大人も参加する京都検定の1級合格率は4・3%、3級でも10歳代の合格者が3割強の難関だが、市教委は中学生300人程度の挑戦を後押ししたい考えだ。
小学生には5、6年生を対象にした市教委の「ジュニア京都検定」への挑戦も呼びかける。
市教委の担当者は「伝統文化を引き継ぎ、国内外に発信する力を身につけたグローバルな人材の育成につなげたい」と話している。(倉岡明菜)