恐怖のアパート・伏見編
~心理的なものと偶然との重なり合い~
今回から少し原点(?)に戻った話にしてみる。
昭和52年、伏見区のアパートで実際にあったという話。
その部屋の主婦は近所でも評判の美人だったが、浮気の常習者でも有名であった。
気の弱いご主人は奥さんの浮気がばれるたびに「いいかげんで目を覚ましてくれ」と頼んでいたが、奥さんは委細かまわず浮気を繰り返していたのである。
ある朝、前日に奥さんが帰宅しなかったご主人の様子がおかしかったのを気にした近所の人が訪ねていくと、ご主人は風呂場の天井に紐をかけて首吊り自殺をしていた。そして風呂場の壁には口紅で
「H(奥さんの名前)死んでやる、呪い殺してやる」
と「遺書」が書かれていた。
初七日の晩、Hさんは浮気相手の男と電話で話しをしていると、ロウソクの火が風も無いのにユラユラと揺れ、ふっと消えた。そして風呂場の戸が開く音がする。
その音と共にHさんは金縛りにかかり、後ろに人の気配がしたので少しずつ振り返ると、そこに自殺したご主人が立っていた!
そしてそれから幽霊はしょっちゅう現れ、Hさんはとうとう精神のバランスを崩してしまったという。
まあ、これは心理的なものだろう。壮絶な自殺に近所の人たちの陰口も耳に入っていたに違いない。初七日の晩に浮気相手と電話をしていたなんて、よほど心細かったのではないか。「それから幽霊はしょっちゅう現れ」と言うが、第三者が見たわけではない。多分、ほんのちょっとした物音にも恐怖を感じる状態になってしまっていたのだな。
さて、それから年が明けた昭和53年、このアパートに親子三人の一家が引っ越してきた。
近所の人たちは表向き「これからもよろしゅうに」と愛想良く応対していたのだが、ひっそりと「大丈夫やろか?」と噂していたという。
1ヵ月後、この一家のご主人が病気になり、精神状態が周期的におかしくなってしまう。そしてその周期はだんだんと狭まり、異常をきたす時間は長くなっていく。
ある日、奥さんがボンヤリしているご主人に子供を託して外出した。そして1時間ほどして戻ってみるとご主人と子供の姿が無い。
大慌てで行方を探すものの見当たらない。
二人を見つけることが出来ずに帰宅してうなだれていると、ご主人が帰ってきたのである。しかし子供は連れていない。とうとうお巡りさんも出動して子供を探し回った。そしてついに発見!
お巡りさんに保護された子供は墓場で見つかったのである。子供の前にあったお墓は自殺したあのご主人のものだった。
このあとすぐ病気のご主人は入院し、奥さんは子供を連れて実家に帰ったという。
しかしまあ、これは偶然だろう。
そして数ヵ月後、その部屋にまたもや新しい家族が引っ越してきた。
新しく引っ越してきたのは二人の娘がいる20代のサラリーマン家庭。ご主人は毎朝ジョギングをする人だった。
入居して2ヵ月がたった頃、このご主人が心臓発作で倒れてしまう。今まで健康診断でも心臓に異常なんて見つからなかったのに。
当分働けそうにないご主人を残し、奥さんは実家へ相談に帰った。そこに「ご主人が鉄道に飛び込んで自殺した」という電話が掛かってきたのだった。
奥さんはそのまま気を失ったという。
このご主人が自殺したのは奇しくもHさんのご主人が風呂場で首を吊ったのと同じ日だったと。
それまで健康だった人が病気を苦に自殺するというのは珍しい話ではない。日にちが同じだったというのは、客観的な裏付けがあるのか近所の人がそう言ってるだけなのかは不明である。ただ、同じ日ではなくても近い日だったというのは確かかもしれない。
この次に引っ越してきた家族がどうなったかはわかっていない。
それにしてもこのアパートの大家も、初めの家族に不幸が起きた時点でお祓いぐらいしたらしたらどうや。少なくともその部屋は「事故物件」になるのではないのか? 後から入居した一家も、周りの人たちの噂話を耳にしていたのかもしれない。そうなると気の弱い人は体調なり精神なりが不調になることもあるだろう。
心理的なものと偶然とが重なると思わぬ不幸が起きることがある、という実例ではないかな。
しかし、それにしてもこのアパート、具体的に伏見のどこなのかは特定出来なかった。恐らく今はもう無いだろう。
【言っておきたい古都がある・441】