許すか許さないか、猥褻教師
~昔は聖職者、今は?~
今回は前回までの話に引き続き動物ネタで行くつもりだったが、面白い時事ネタが入ってきたのでちょっとだけ予定を変更して生殖ではなくて、聖職について書く。
生徒に猥褻行為をした教師の処分に関し、各地の教育委員会で対応に差が出ている。文部科学省の方針は「原則として懲戒免職」なのだが、処分権限を持つ教育委員会の考え方の違いにより、同じ猥褻行為なのに教委によって処分に差が出ているのだ。
どんな例があるかというと、
平成27年(2015)福井市立中学校の29歳の男性教師が女子高生のスカートの中をスマートフォンで撮影して逮捕されたが、福井県教育委員会は免職ではなく停職6ケ月の懲戒処分にとどめた。その理由は
「被害者は他校の生徒で、プライベートでの行為だった」
というものである。
いやいや、自分の学校の生徒であろうが他校の生徒であろうが同じではないのかい?
プライベートでの行為って、授業中にこんな行為をするのでない限り処分は軽くなるのか? そもそも授業中にはやりたくても出来ないだろう。
平成30年(2018)横浜市立中学校の男性教師が女子中学生に上半身裸の動画を撮影、送信させて児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕され罰金を命じられたが、横浜市教委は停職12ヶ月の懲戒処分にした。何故これが免職にならなかったかというと、横浜市教育委員会の見解は
「被害者は他校の生徒で本人の教え子ではない。教員の地位や立場を利用したわけではなく、『児童・生徒』には当たらないと判断した」
というもの。
一般の常識でいえば、自分の学校の生徒か他校の生徒かに関係なく「児童・生徒」だと思うのだが、横浜では違うらしい。
こんなもの、文部科学省がガツンとやればいいと思うのだが、実際問題として「処分は各教委の裁量で決めることであって、国に権限はない」のだそうである。
令和元年(2019)大阪府立高校の33歳の男性教師が教え子(ついに自分の学校の生徒が出てきた!)の女子高生に学校内(!)でキスをするなどして、停職3ヶ月の処分を受けた。大阪府教育委員会の見解は
「相手の同意を得ていた」
というもの。
うーむ、これは微妙かもしれない。相手の女子高生も納得しているのだから。
しかし、例えばレストランに努めている人がお店の食材を勝手に食べたら怒られるのと一緒で、たとえ同意の上でも学校内で教え子とキスするのはイカンと思う。これこそプライベートでの場でやるべきだろうに。
文部科学省が定義する「猥褻行為」というのは、
強制性交や強制猥褻、公然猥褻、痴漢、覗き、青少年保護条例違反、下着姿の撮影(隠し撮り含む)、猥褻目的で体に触れること、等々。
平成27年から令和元年までの5年間でセクハラを除く猥褻行為で懲戒処分を受けた公立学校の教師は810人。このうち650人が懲戒免職になっている。
いちおうクビになった人のほうが多いのだ。ちょっと安心かな。
ちゃんとした処分をした教育委員会もあることを書いておかなければ不公平になるだろう。
令和元年、北海道教育委員会は7月に48歳の中学校男性教師を、8月には56歳の高校男性教師を懲戒免職にした。2人とも女子生徒と校外や車の中で複数回キスをしていた。中学校のほうは教師も生徒もお互いに「好意を持っていた」らしいのだが、48歳なら妻子がいるかもしれない。やはりイカンやろう。ただ、48歳で独身で、女子中学生と(同意の上でも)キスしたら、やっぱりイカンと思う。
あとひとつ、極めて珍しい例を挙げる。
平成28年(2016)富山県の中学男性教師が18歳未満の少女に猥褻な行為をしたとして逮捕されたが、富山地検はこの教師を不起訴にした。
そして富山県教育委員会の処分は停職6ヶ月であった。本来なら懲戒免職なのだが、何と卒業生らからこの教師を辞めさせないでほしいという嘆願書が出され、日頃の勤務態度も真面目だったので停職にとどめたとのこと。
嘆願書が出されるぐらいだから本当に良い教師で、今回は「出来心」ということで再起の機会を与えてあげてほしい、との思いだろう。こういうのは判断が難しいかもしれない。文部科学省の「猥褻教師は懲戒免職」という通知は正論なのだが、杓子定規な対応ではなく個々の事例を丁寧に検討して処分を決めるのも大事かもしれない。中央の方針を問答無用で当てはめるのでもなく、現場の馴れ合いで甘くするのでもなく、公平に処罰しようとすれば、処分の判断は教育委員会という組織のの外部に立つ人に委ねるしかないのかなとも思うし。
まあ、私には判定が付かない。
ところで、この12月23日、千葉県でも猥褻行為で免職になった教師15人を官報に掲載していなかったのが発覚した。千葉県教育委員会は「児童生徒が特定されないように」掲載を見合わせ、「不適切とは考えていない」ものの「今後の運用は検討していきたい」という。
今の千葉県知事は俳優時代の若いころ、熱血の学園ドラマで活躍した人のはずだが。まあ、年を取れば熱も冷めるのだろう。仕方がない。
一年間、読んでくださったみなさんと、文句も言わずに掲載してくれた編集部に感謝です。
来年がみなさんと日本と世界にとって明るい年になりますように。
あ、もちろん私にとっても明るい年になれば嬉しいです。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。
【言っておきたい古都がある・419】