再び、冥界編ハイライト(その5)
〜人間界以外はどんな世界なのだろうか〜
さて、地獄めぐりを終え、鉄輪の井戸に寄り道をして、ここでもう一度「京都ミステリー紀行・冥界編」の本ルートに戻るとしよう。
え? まだ続くの?
と思われた皆さん、まだ続くのです。しつこいですか?
さて、ここで思い出してもらいたい。冥界の10人目の裁判官の名は五道転輪王であった。人が生まれ変わる道は「六道」と言って6つあるのに、何故五道転輪王なのだろうか。生まれ変わった道の他に後5つ、というのは成り立たない。裁判の結果、最初の判決どおりというのもあるからだ。では何故、道の数が違うのか。
実は本来は「五道」だった。ところが、途中からひとつ増えたのだな。ここで問題です。
六道輪廻の世界のうち、もともとはなかったのはどれでしょう?
答「修羅」です。
修羅の世界は本来存在しなかったのだが、諸般の事情で新たに構築されたのである。
そこにどのようなドラマがあったのか。
「修羅」は「阿修羅」とも言われるが、「阿弥陀」のことを「弥陀」、「阿羅漢」のことを「羅漢」と言うように、わが国では「阿」を取って言う事がある。以下「阿修羅」と書きます。
【阿修羅の物語】
阿修羅には美しい娘がいました。忉利天(とうりてん)の支配者・帝釈天がこの娘を見初め、縁談が成立する。
ここまでなら問題ありません。
ある日、帝釈天が忉利天を視察していると、偶然にこの婚約者である娘の姿を見つけた。ここで、「綺麗やな」と思いながらニヤッとしているだけなら良かったのですが、帝釈天は婚約者に声をかけ、しばらく話しをしているうちに欲望を抑えきれなくなり、ついにレイプに及んでしまいました。で、どうせならこのまま、と婚約者を城に連れて帰ってしまった。
この話を聞いた阿修羅は激怒し、帝釈天に抗議をしに行きます。
「お前はうちの娘に何ということをするか!」
「良いではないか、どうせ婚約者だし」
「そういう問題ではない。けじめをつけろ!」
「硬いことを言わなくても良いがな」
「良くはない!」
「どうせ婚約者だしぃ」
「たとえ婚約していても、ものには順序がある!」
「式を挙げてからやるか、やってから式を挙げるかだけの違いだしぃ」
「エライ違いや!」
謝る気配のない帝釈天に怒り骨髄に達した阿修羅は戦いを挑みます。
阿修羅の軍隊が帝釈天の城に攻めて来た。大戦闘の末、阿修羅が負けたのです。
しかし、一度負けたぐらいでへこたれる阿修羅ではありません。態勢を立て直して再び帝釈天に挑んだ。で、また負けた。
阿修羅はさらに軍備を整えて三度、帝釈天に挑戦しますが、またまた負ける。
戦いを挑んでは負け、挑んでは負けの状態が続き、ついにこの戦いが天上界の上層部でも無視することが出来なくなりました。
そして裁定の結果、阿修羅が天上界を追放されたのです。
えーっ、何で!? 正義は阿修羅の側にあるんじゃないの? と思われた方もおられるでしょう。そうですね、常識で考えたら帝釈天のほうが悪い。
では何故、阿修羅のほうが?
【ちょっとだけ現世】
写真は八坂の塔である。永享12年(1440)に室町幕府6代将軍足利義教によって再建され。ただ、この塔の再建の翌年、足利義教は嘉吉の変で暗殺されているで、あまりご利益はなかったようだなあ。
[googlemap lat=”34.998554″ lng=”135.779226″ align=”undefined” width=”500px” height=”300px” zoom=”17″ ]京都府京都市東山区八坂通下河原東入八坂上町388[/googlemap]
【いま明かされる阿修羅追放の謎】
戦いの大儀は阿修羅の側にあったのに、何故その阿修羅のほうが追放されてしまったのか。
阿修羅は帝釈天に撃退されても諦めることなく何度も何度も戦いを挑んだ。そして戦うことのみに執着し、他のことを顧みることが出来なくなったとき、阿修羅のほうに非が多いと判定されたのである。ひとつのことに凝り固まってはいけないのだな。
帝釈天は何度戦っても阿修羅に止めを刺すようなことはしていない。まだまだ相手のことを思う余裕がある。執着していないのです。この差が出たということでしょうか。
天上界を追放された阿修羅は他のどの世界にも行くことができず、「修羅」という独自の世界を形成した。そこでは明けても暮れても血みどろの戦いが繰り広げられている。正に「修羅場」という言葉の語源になったというのも頷けますね。
こうして五道の世界にひとつ加わって六道になったのである。
となると、阿修羅が追放される前は「六道輪廻」ではなく「五道輪廻」だったのか? ということになりますが、理屈の上ではそうでしょうが、実際はちょっと分かりません。
生まれ変わって地獄に行くのは嫌だけど、この修羅の世界も嫌だなあと思いませんか。
行くならやっぱり天上界がいい!
では、その天上界はどんな所か。
それはまた来週。
【言っておきたい古都がある・47】