英語の束縛(その5・完結編)
~日本語でコミュニケーションが出来ずに英語で出来るわけがない~
さて、新聞も「英語力の底上げが急務」だと言うわけだが、その根拠のひとつに「英語力調査」(2019版)で英語を母国語としない100ヵ国・地域のうちで、「日本人の英語力は53位で、五段階評価で下から二番目、「低い」に分類されている。これは香港や韓国よりも低い」というのがある。
しかし、この調査は世界各地で語学学習ビジネスを展開する企業がやっているのである。「世界全体の英語力は上昇傾向にあり、日本と他国との相対的な差が顕著」というのも英語学習ビジネスの目から見た言葉と思わなければならない。
さらに、訪日外国人の困りごとのトップは「施設等のスタッフとのコミュニケーションが取れない」であるが、これは別に英語だけに限らないだろう。しかも平成28年(2016)調査での回答率32.9%に対して平成30年(2018)では20.6%に改善している。2年で10%以上も改善さすなんて、凄いじゃないか。少しずつ改善してもう後戻りしない、という堅実なのが一番いいのである。「英語力がなってない」と脅かされても怯む必要はないのだ。
本当に心配しなければならないのは「日本語力」の低下である。それは日本人同士がコミュニケーションが取れなくなることを意味する。
経済協力開発機構(OECD)が実施した国際学習到達度調査(PISA)で、日本の15歳の読解力は15位と過去最低であった。
国立情報学研究所の教授で、東大合格を目指す人工知能「東ロボくん」の開発者でもある新井紀子氏はこれに危機感を持たれており、読解力の重要性を訴えておられる。
新井教授によると、東京都内のある小学校では四年生のクラスで自分の名前を漢字で書けない生徒が半数を占めていた。授業でタブレット端末が導入され、文字を書く機会が激減しているのも原因という。
ところが週に一回、朝の3分間だけ、教科書や新聞の記事を集注して書き写すことを始めたら、3か月ぐらいでメキメキ上達した由。おお、写経というのが現代に生かせるのだ!
物事の意味を正確に読み取って表現する。論理的思考を働かせて問題解決に繋げる。創造性を発揮する。これらの基礎は日本語の読解力である。
しつこく言うが、日本の国際化というのは英語の喋れる日本人が増えることではない。日本語を喋れる外国人が増えることである。ここを間違えてはいけない。
小学生で英語を教えて「英語脳」など育ててはいけないのである。「日本語脳」こそ大事なのだ。「英語脳」に毒されて日本人力を低下させてはいけない。アジア諸国の多くの人が日本人よりも英語が上手いのはかつて植民地だったからである。そんなことを羨ましがってはいけない。
昔、覚醒剤撲滅キャンペーンの広告文句に
「あなた、覚醒剤やめますか? それとも人間やめますか?」
というのがあったが、そのパロディが出来そうである。
「あなた小学校の英語やめますか? それとも日本人やめますか?」
今からでも遅くはない。小学生に英語を教えるのはやめよ。
(英語の束縛・完)
【言っておきたい古都がある・380】