四千年の知恵(その30)完結編
~本当に怖い話の締めくくり~
『韓非子』外儲説左第32
呉起が魏の将軍となって中山の国を攻めたとき、悪性の腫れ物に苦しむ軍人がいたので、呉起自らひざまづいて膿を吸ってやった。
それを知ったその軍人の母親は泣いた。
人が理由を尋ねると母は、「これで私の子は戦死するでしょう」と答えたのであった。
つまり、感激した軍人は「呉起のためなら」とハッスルして戦い、命を落とすだろうと。
中国4千年の知恵。善意の仮面をかぶる。
気をつけよう、甘い言葉と支那の善意。
ニコニコとした笑顔で握手を求めてくるその笑顔の裏が危険なのである。
さて、この「四千年の知恵」シリーズも昨年から30回、半年以上に亘って続けてきたが、そろそろお開きにしよう。
と、いうことで、締め括りとして中国四千年の知恵の極めつけ、やはり女性は怖い、というお話。
呂太后。この人は極めつけの悪女ということになっている。
劉邦が死んで恵帝が即位すると、呂后は皇太后としてその後見にあたる。そして自分の子である恵帝の有力なライバルであった高祖の庶子の斉王劉肥、趙王劉如意の殺害を企て、斉王暗殺は失敗するが、趙王とその生母戚夫人を殺害した。
その戚夫人の殺害というのがハンパではない。
呂太后は戚夫人を永巷(えいこう=罪を犯した女官を入れる牢獄)に監禁し、一日中豆を搗かせる刑罰を与えた。
さらに呂太后は宦官に命じて戚夫人を裸にし、押さえつけさせ両足を大開にさせると、「これで先帝をたぶらかしたのか」と戚夫人の陰部を靴で踏みつけた。
次いで凶悪な囚人たちに戚夫人を与え、順番に強姦させた。
その後で戚夫人に劇薬を飲ませ声を出せなくした。
そして戚夫人の耳に硫黄を流し込み、耳を聞こえなくした。
そのうえ両目をくりぬいて目を見えなくした。
仕上げに腕を片方切り落とす。戚夫人が気絶すると水をかぶせて正気に戻し、もう一方の腕も切り落とした。
こうして両足も切断した。
呂太后は達磨さん状態の戚夫人を便所に投げ落とした。
引き上げられた戚夫人は糞まみれの状態でまだ動いていた。
呂太后はその姿を息子の恵帝に見せ、「人豚、人豚」と言って喜んだ。
恵帝は自分が見たものにショックを受け、頭がポ~ッとなったのか、政務を放棄し酒に溺れ間もなく死ぬ。
ただし、その時代は「天下は安定していて、刑罰を用いる事は稀で罪人も少なく、民は農事に励み、衣食は豊かになった」そうである。
そりゃそうだ。こんな人に逆らいたくない。
中国4千年の知恵。中途半端はいけない。
ただ、呂太后のためにすこし弁護しておくと、劉邦存命中に戚夫人は皇太子を廃して自分の息子を新たな皇太子にしようと画策している。その策謀が成功すれば人豚にされたのは呂太后のほうだったかもしれない。
こういった「残虐さ」も後の評価による脚色が含まれている可能性もある。
しかし、呂太后の場合は、結構具体的なので、やっぱり本当かなと思ったりして。
「四千年の知恵」(完)
【言っておきたい古都がある・370】