四千年の知恵(その16)
~中国流ごまかしの極意~
漱石枕流。
中国西晋の孫楚は「石に枕し流れに漱(くちすす)ぐ」と言うべきところを、「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまい、誤りを指摘されると、「石に漱ぐのは歯を磨くため、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言ってごまかした。
孫楚さんは若い頃、政府高官に就職したいのに、表向きは猟官運動を蔑視していた。
いるいる。こんな奴。実力もないのに偉そうなことを言って、高位高官を軽蔑する発言をし、そのくせその高位高官になりたがってる人。妬み、嫉み、僻みの塊みたいなのに侮蔑発言をする自分に陶酔する輩はいつの時代にもいるのだ。
そんなわけでこの孫楚さんだが、友人にも「無為自然な生き方がしたい」と格好をつけ、「石に枕し流れに口を漱(くちすす)ぐ」と言おうとした。
つまり「石を枕にして川の流れで口を洗う」ような、日本風に言えば「侘び・寂び」のような生活が理想だと気取ろうとした。
それをうっかり間違って「石に漱ぎ流れに枕す」と言ってしまったのだな。
まあ、私たちだって「黒山の人だかり」と言うべき所を「人山の黒だかり」と言ってしまうことがあるでしょう。同じである。
そこで友人から「石で口が洗えるか? 川の流れを枕にして寝られるか?」とツッコミが入ると、孫楚さんは慌てず騒がず、
「流れを枕にしたいというのは、汚れた俗事から耳を洗いたいからで、石で漱ぐというのは、汚れた歯を磨こうと思ったからだ」と言い放った。
これぞ中国四千年の知恵。
自分の失敗は絶対に認めない。
ちなみにこの孫楚さん、『世説新語』によると他人に頭を下げることのできない人物だった由。
これも中国四千年の知恵か。
他人に頭は下げない。
流石!
ちなみに、感心する意味で「流石」といえのも、この漱石枕流から来ている。
もうひとつ、夏目漱石のペンネームもここから取っているのは有名。
漱石って、自分の間違いを認めたくなかったのかな?
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・356】