四千年の知恵(その15)
~人生の三つの友は音楽と文学とお酒~
北窓三友。
白楽天(白居易)の詩で、本来の意味は琴、詩、酒の三つのこと。
今では解釈を広げて音楽、文学、酒と理解するのが良いと思う。
この三つは私の親友でもあります。
白楽天先生の家系は地方官として役人人生を終わる男子も多く、抜群の名家ではなかった。
ところが安禄山の乱以後の政治改革により、比較的低い家系の出身者にも機会が開かれ、キリスト暦800年、29歳で科挙の進士科に合格して中央官僚への道が開けた。
ところが要職を歴任した後の815年、武元衡暗殺事件をめぐり越権行為があったとされ、江州(現・江西省九江市)の司馬に左遷される。
その後、中央に呼び戻されたものの、まもなく自ら地方の官を願い出て、杭州・蘇州の刺史となり業績をあげたとか。
中央にいたのでは何時また政争に巻き込まれて命が危うくなるかもしれない。栄光に包まれた「太く短い」人生よりも、「細く長い」公務員生活を選んだのである。
意外と小市民的かな。
あるいはこれが中国四千年の知恵か。君子危うきに近寄らず。
71歳で退職した後、74歳のとき自らの詩文集『白氏文集』75巻を完成させ、翌年75歳で生涯を閉じた。
何にしても、公務員をやりながら詩作を続けていたのだから凄い。
あるいは、仕事のほうは「休まず、遅れず、働かず」で趣味の詩に没頭していたのかも。うん。それなら忙しい中央官庁よりも暇の作れる地方官のほうが良かったかもしれない。
ちなみに日本でも昔は長沼弘毅という大蔵省事務次官にまでなったお役人はシャーロック・ホームズの研究者としても有名で、イギリスのホームズ・ファンクラブである「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」に日本人として初めて正会員になった。もちろんホームズに関する本もたくさん出していたし、ミステリの翻訳でも創元推理文庫からアガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』などいくつかの長編が出ていた。
なにしろこの長沼さん、事務次官時代は執務を午前中で終え、午後は来客を断って労働法の研究に没頭し、夜は宴会にも出ずにシャーロック・ホームズの研究に打ち込んだというのだから堂に入っている。その上、柔道も五段だったというから凄すぎるではないか。
かつてはわが国にもそんな立派な役人がいたのですね。
(来週に続く)
【言っておきたい古都がある・355】