京都の洋食(その2)
~洋食の3大傑作の話、お子様ランチ~
前回お話した日本の洋食の3大傑作「お子様ランチ、カツカレー、オムライス」について。
お子様ランチというのは昭和5年(1930)12月1日、日本橋三越の食堂部主任であった安藤太郎が数種類の人気メニューを揃えた子供用定食を考案し発売したのに始まる。京都発祥ではないのだが東京都というのは「ひがしきょうと」と読むのが正しいのでそれで良しとしよう。
数種類のおかずが食べられて野菜も付き、ケチャップライスには日の丸が燦然と輝く。
近年、この国旗に日本以外のものがあるらしい。「昔から色々な国の旗を立てていた」という人もいるのだが、少なくとも私は子どもの頃、日の丸以外の旗を立てたお子様ランチというのは見たことがない。
で、何で日の丸の旗かというと、そもそもお子様ランチに盛り付けたご飯を山に見立てて、登山に成功したら山頂に旗を立てるようにランチにも日の丸を立てたと。
ということは、日本の食堂で日本人が作って日本人が食べるのならばやはり日の丸でなければならない。他国の旗を立てたりしたらそのお子様ランチは他国の領土になってしまう。つまり隣に座っているオッサンが「おっ、それ美味そうやのう」と言って勝手にパクッと一口食べても文句が言えないのではないか。
たかがお子様ランチの事ではないかなどと暢気な事をいっていてはいけないのである。
大人になってから食堂でお子様ランチを注文するのは勇気が要る。なかには年齢制限があって大人には出してくれないところもある。
それなら大人ランチであるプレートランチを食べれば良いようなものだが、私としては大人ランチはおかずとご飯を別々のお皿で出してもらいたい。
で、何が言いたいかというと、洋食の3大傑作のひとつであるお子様ランチがどうしても食べたいというのではなく、ごはんもおかずもひとつのお皿に盛りつけたプレートランチ(大人ランチ)には何故日の丸が立っていないのか、ということ。
どこか旗を立ててくれないものか。
もっとも、中華人民共和国の旗が立ってたりしたらのけぞるけど。
さて、子供の頃お子様ランチで洋食に親しんで、大人になったらもう食べられない、というのは寂しいのではないか。この渇きを癒してくれる店がある。
ひとつは伏見のコートレット。場所は黄桜カッパカントリーの駐車場の横である。
ここには「大人のお子様ランチ」(1380円)がある。ハンバーグ、天使の海老フライ、カニクリームコロッケ、ヒレカツに野菜がつく。ご飯は別料金で(300円。味噌汁と漬物がつく)、お代わり自由。ただし旗は立っていない。
ここのメニューをざっと見ると、ごっついチキンカツ300g(880円)、男の!!ハンバーグ(300g、1680円)、の他、地元納屋町商店街にある大正10年創業のササキパンとコラボしたサンドイッチもあり、地元密着型の側面もある。すぐ近くにある伏見の洋食屋の老舗・大進亭と比べても遜色ない新興勢力である。
さて、もうひとつは昭和45年創業の中堅、キッチンゴンである。西陣の他に京都駅ビル、丸太町、六角に出店している。
ここにはそのものズバリ「大人様ランチ」(1300円)があるのだ。
ハンバーグ、海老フライ、白身魚フライ、オムライス、フライドポテトが豪快に盛ってある。ただし旗は立っていない。
子供はいずれ大人になる。だからお子様ランチが大人様ランチに成長するのも当たり前。これを子供に食べさせてはいけない。
子「お父さん、大人様ランチが食べたい」
父「駄目だ。お前にはまだ早い」
子「なんでー、なんでー」
父「大人になるまで待ちなさい」
という会話が行われなければならない。子供と大人の違いをしっかりと教えなければならないのである。しかし、高校生になって、小遣いを懐に親に内緒でこっそりと大人様ランチを食べに来て人生の至福を感じる、というのはかまわないのだ。
この他、炒飯に豚カツを乗せてカレーをかけるという「ピネライス」というのもあるのだが、これはかなり俗っぽい。しかし食べてみたくなるだろう。
さて、「お子様ランチ」に「大人様ランチ」と来れば、さらに成長すると「お年寄りランチ」が出来なければならない。どのようなものが盛られるのだろうか。
白身魚のムニエル、ボンレスハム、蒸し鶏、プレーンオムレツ、野菜サラダ、ぐらいかな。ご飯かパンかは選んでもらおう。
どこかメニューにしないかな。
京都の洋食は何の変哲もないハンバーグや海老フライから色々なものをゴテゴテと盛った俗っぽいものまで幅が広い。洗練と通俗、高級と大衆、ピンからキリまで何でもある。そしてお客さんもそれぞれのお店をしっかりと評価してくれる。
前回言及した下鴨の浅井食堂だが、ここは最寄り駅から1kmという見事な立地である。駐車場もない。でもそのアクセスの悪さをものともせずにお客さんはやって来る。これが京都の洋食屋の真髄なのである。
【補足】「ランチ」と言うと、「夜に出してもランチか」という古典的に古いツッコミがあるけれど、洋食屋の「ランチ」というのは「定食」という意味である。この「ランチ」という言葉も英語ではなく日本語になっている。
(来週はカツカレーです)
【言っておきたい古都がある・312】