家尊人卑(その9)
~奥さんを離婚できない三つの原則~
前回までは江戸時代の町人を中心に日本の社会は決して男尊女卑ではなく、その実態は「家尊人卑」であったということを見てきた。
いよいよ視点を変えて武家の世界に入っていくことにする。
これまでの検証で江戸時代に「三界に家なし」と言われた江戸時代の女性は決して権利が否定されていたのではないと分った。
では武家はどうであったか、という話に移るのだが、その前に「七出三不去」をみておきまたい。
「七出三不去」というのは養老令(奈良時代)にあった旦那さんが奥さんを離婚できる七つの理由と、離婚してはいけない三つの理由である。
「七出」
以下の七つのうちのどれかに該当すれば奥さんを離婚できた。
①子のないとき。②淫らな者。③舅や姑に仕えない者。
④多言な者。⑤盗みをする者。
⑥やきもちを焼くもの。⑦悪い病気のある者。
②と⑤は妥当なような気もするが。でも今、こういう事を言うと「セクハラだ」と詰られるのかな。
「三不去」
この三つのどれかに該当すれば奥さんを離婚できなかった。
①舅、姑の喪中。
②結婚したとき夫の身分は低かったが、その後、貴くなった者。
③帰るべき家のない者。
さて、七出は旦那さんの権利だからそれを行使するかどうかは旦那さんの自由である。つまり、やきもちを焼く奥さんでも一緒に暮らしたいと思えば別に離婚はする必要ない。
注記しておかなければならないのは、一方的離婚理由になった「子のないとき」なのだが、これは実質的には「50歳を過ぎても男子のないとき」だったそうで、それならこんな規定は事実上空文である。
さらに「和離」といって、今で言う協議離婚の制度もあった。
「七出」が旦那さんの「権利」だったのに対して、「三不去」は「禁止の規定」だから該当すれば離婚できなかった。
もちろん、①は喪が明ければ離婚できたという事であるから、確かに酷いかもしれなが、実際は「喪中ではないから離婚だ」なんて話もなかったようである。
しかし③の場合、追い出されたら奥さんには行くところがない、という場合は離婚できなかった。離婚によって奥さんが路頭に迷う場合は離婚できなかったのである。女性に対する「弱者への配慮」というのがなされているわけだ。
これが男尊女卑ですか。
さらに②のケースである。
「結婚したとき夫の身分は低かったが、その後、貴くなった者」は奥さんを離婚できなかった。
このケースでは一生離婚できなかった事になる。
身分が高くなったのは旦那さん一人の力ではなく、奥さんの協力(内助の功)があったからだということではないだろうか。女性の立場は蔑ろにはされていない。
特に②のケースでは、たとえ奥さんが淫らで、おしゃべりで、盗み癖があって、やきもち焼きで、悪い病気持ちでも離婚できなかった事になりますね。死ぬまで付き合わねばならなかった。
これなら、「貴くなりたくない」と思う男性もいたのではないかな。
これが男尊女卑ですか?
否。ここにも「家尊人卑」が垣間見える。
つまり「高貴になった人」は自分の「家」というものを大事にしなければならないから、その「家」の構成員である奥さんを離婚できなかった。一定の階級に達した者には「家」という規制が掛けられたのである。
全然武家の話に入らなかったが、来週はちゃんと書きます。
(つづく)
【言っておきたい古都がある・284】