松尾芭蕉とお酒(その1)
~芸術家は酒を好む~
松尾芭蕉といえば教科書に必ず出てくる有名人で、この人を知らなければ日本人ではないかもしれない。ただ、教科書などには妙に「芸術的な句」ばかり載せてるようで、それだけでは芭蕉も発句も理解できない。何故ならば、もっと素敵なお酒の句もあるからだ。決して「お酒の苦」ではない。「お酒の楽」である。楽しみである。「楽あれば句あり」。。。ん? ちょっと違ったかな?
「飲み明けて花生にせむ二升樽」
朝まで飲んで、全部飲んでしまって空っぽになった二升樽に花を生けましょうという誠に風流な句である。
もちろん、芭蕉が一人で飲んだのではなく、弟子やお友達と飲んだのだ。
芭蕉も酒盛りをやった。流石は芸術家。
また芭蕉から麹屋茂作への手紙に次のようなものがある。(現代語訳で)
「田舎から僧侶が2,3人やって来ます。寒い折からにゅうめんを振舞いたいのですが、今の私に貯えはありません。麦麺をたくさんと、酒を二升をいただけませんでしょうか。肴は粒納豆で結構です」
まあ、これを使いのものに持って行かせたと。現代感覚でこれを読むと
タカリやないけ~~~!
と思ってしまうが、その通り。
それにしても当時の坊さんは酒を飲んだのだ。まあ、般若湯かもしれないが。
しかもお酒をねだるだけではなく、酒の肴まで要求しているではないか。
私がこんなことをしたら顰蹙ものである。
大体わが国の大芸術家は酒を飲みに行っても自分では金を払わない人が多かったのではないか。
たとえば、本阿弥光悦が遊里で太夫さんも呼んで散々飲み食いしても、「勘定は灰屋紹由さんとこへ廻しといて」と言って帰ってしまう。これもタカリなのだが、灰屋のほうもその勘定を文句も言わずに払う。大芸術家だから許されることなのだな。
円山応挙も池大雅も与謝蕪村も、みんなやってますよ。で、気が向いたときは色紙の一枚ぐらい描いてやる。それでもってそんな作品が重要文化財になったりするわけだ。
ところで芭蕉の句。
「草の戸や日暮れてくれし菊の酒」
「朝顔は酒盛り知らぬさかりかな」
「夕顔に酔って顔出す窓の穴」
「月の宿亭主盃持ち出でよ」
飲んでますね~。しかも次のような句もある。
「二日酔いものかわ花のある間」
二日酔いが何ぼのもんじゃあ~~。
でも皆さん。飲み過ぎには注意しましょう。
「酔って寝むなでしこ咲ける石の上」
これから食欲の秋で、その先には忘年会の季節が待っている。どんなにお酒を飲んでも、道路の上で寝ないようにしましょうね。
(来週は芭蕉と「わびさび」の酒について書きます)
【言っておきたい古都がある・256】
【編注:顰蹙(ひんしゅく)】