京都らしさとは何か?
このコラムもついに連載200回を迎えた。途中、パソコンの故障(結局そのままご臨終だったのだが)の数週間を除けば基本的には毎週火曜日に記事をアップし続けて200週間、約4年である。見捨てることなく読んでくださった皆さんに感謝。
~京都は文化の坩堝(るつぼ)である~
さて、そこでその200回目は「原点」に戻って「京都らしさ」についてである。
この「京都らしさ」というのが中々難しい。
たとえば「京都駅のあの駅ビルは京都らしくない」と言われる。
では、どのようなビルなら「京都らしい」のか?
誰もこれには答えない。
たとえば、「絶対に木造でなければダメだ」とか。「伝統的な建築様式を取り入れてなければダメだ」とか。なにか対案がありそうなものなのだが、私は聞いたことがほとんどない。
ただ、今の駅ビルに関しては反対していた「市民団体」がどこかの大学教授を引っ張り出してデザインを作らせ、「こっちにしろ」と要求していたが、そんなもの、本当にそれが京都らしいのなら、なぜ最初からコンペに参加しなかったのか、という話である。何もかも決まったあとで横合いから口を入れてどうする。
ただ、この、何か目新しいことをやろうとすると「京都らしくない」というクレームが来るというのが「京都らしい」現象だといえるだろう。
さて、京都らしいといえば知恩院や南禅寺の三門はいかにも京都らしいのではないかと思う。
しかし、それらもそれが出来た当時の最先端の技術を駆使して作った巨大建築物である。この意味でなら今の駅ビルも同じではないか。
京都は最先端の、モダンな都市でもあった。単なる「古都」ではない。古都なのだが常に現代都市なのだ。だいたい、平安時代の人にしてみれば、自分たちの生きているそのときが「現代」である。
歴史上のどの時期でも、京都は常に現代都市であった。過去の遺物になったことはない。
明治になって日本で初めて市電(路面電車)を走らせたのが京都である。そのための電気を作る水力発電所を作ったのも日本初である。
小学校を作ったのは京都が日本で初めて。
学校に図書館を設置したのも京都が日本で初めて。
鉄筋コンクリートの橋を架けたのも京都が日本で初めて。
映画が上映されたのも京都が日本で初めて。
人間を乗せた気球を空に飛ばせたのも京都が日本で初めて。
京都は古い都なのだが新しいモノが好きなのだ。
南禅寺に水路閣というのがある。
まるで古代ローマのような趣があり、ドラマにも登場することがあるのはご存知の通り。
書いて字の如く、琵琶湖疏水の水路になっているのだが、あれを作るとき、「そんなものを境内に通すな」と南禅寺は猛反対したのであった。散々反対して琵琶湖疏水計画を推進した北垣国道知事をなじっておきながら、今ではパンフレットに嬉々として水路閣を載せ、自慢している。
水路閣は「京都らしくない」とされていたのだ。
それが今は「京都らしい」のだそうで。
京都らしさとはイメージである。
その人その人が持つ京都のイメージ、それが京都らしさであろう。
誰もがご存知の任天堂は京都の企業である。京セラもそう。ローム、日本電産、オムロン、ワコール、堀場製作所、村田機械、などなど色々な会社が京都に本社を置いている。そして京都で本社機能を果たしているのである。これも「京都らしさ」だろう。昔からの歴史と伝統の基盤がしっかりしているから新しいものに挑戦できるわけだ。
名所旧跡、神社仏閣、能狂言、茶道に華道に日本舞踊、清水焼、芸妓に舞妓に京料理、忘れちゃならない三大祭。
まあ、この辺が「京都らしい」ということになるだろうか。
さて、京都だから市民は和食が主流かと思いきや、京都市内には洋食の名店が数々ある。個人経営のパン屋さんの名店も多い。そしてラーメン屋の名店の多いこと。しかも京料理は薄味だが、京都のラーメンは味が濃いのだ。だから東京辺りで「京風ラーメン」という看板の店に入って薄味のラーメンが出てきたら間違いということになる。意外に京都市は牛肉の消費量も多い。
このようなものを食す京都人の生活は「京都らしくない」のだろうか。
京都には何でもある。
古いものから新しいもの。
日本のものから外国のもの。
最高のものから最低のものまで。
天皇陛下の地元でありながら、かつて28年間も共産党の知事を擁したのも京都である。
人はアメリカのことを「人種の坩堝」と言う。
私は京都のことを「文化の坩堝」と言う。
何でもありなのである。
その何でもありの新しいものの中から将来「古いもの」と言われるものが出てくる。
古いくせに新しいものが好き。
これで良いのだ。
これも「京都らしさ」なのである。
【言っておきたい古都がある・200】
連載200回目記念です!
谷口年史さんの「言っておきたい古都がある」は、平成24年6月5日、第1回「あきれカエル? ひっくりカエル? 〜新興宗教だって真面目にやってる〜」から4年余、京都の話題のみならず、国際的、国家的な課題疑問、さらには幽霊界の謎にいたるまで200回に及ぶこととなりました。
コラム連載200回を記念して谷口氏主宰の「京都ミステリー紀行」に読者の皆様をご招待いたします。
内容、応募詳細は
200回記念招待 http://kyotocf.com/news-hop/event/kyo-mystery-200/
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