陰陽師の真実(その6)
~民間の陰陽師~
前回では安倍晴明の神通力というか、不思議な力というのは超能力でもなんでもなく、合理的なものであることを記した。
で、今回は少し目線を変えて、晴明のような国家公務員の陰陽師ではなく、民間の陰陽師に話題を転じる。
民間にも陰陽師がいたのか。
いたんですね。フリーランスの陰陽師が。
ただし、民間の陰陽師はカレンダーを作る必要もないし日食と月食の起きる日を算出する必要もない。よって、いわゆるオカルト的な仕事、ご祈祷や占いといったことを生業にしていた。
漫画や映画などの娯楽作品に登場する「安倍晴明」は、人物像としては実在した有名人、仕事の内容は民間陰陽師と、半分ずつくっつけられているのである。
さて、安倍晴明は公務員であるから国からちゃんと給料が貰えた。
しかし民間陰陽師は仕事の依頼が無ければ収入もなくなるわけで、このあたりは現代のフリーランスと同じである。だから売れっ子は問題ない。安倍晴明のライバルとして描かれたりもする蘆屋道満などは知名度も高く依頼人も多かった民間陰陽師ということになるだろう。
こういう人は問題ないのだが、売れない陰陽師はどうしたか?
待てど暮らせど誰も来ない。これでは食い詰める。
そこで営業活動に勤しむわけだ。
「陰陽師のご用命はありませんか~」
と御用聞きに出たり宣伝に務めたり。
それだけなら問題ないのだが、中には悪い奴もいて、適当な商家にずかずかと入り込んでくると主人を呼び出し、
「この家の周りにはただならぬ妖気が蠢いております。すぐにお祓いをしなければなりません」
と脅してお金を取るのである。
こうなると、ありもしない不幸を言い立ててお布施を取ろうとする新興宗教や家相とか墓相が悪いといって必要のないリフォームやお墓の作り替えをさせる業者と変わらない。
今も昔も似たようなものである。
『今昔物語』巻27の23にそういった民間陰陽師の話がある。
陰陽師を名乗る男がある商家で「この家に鬼が来る」と言っため、その陰陽師を雇って物忌みをしていた。
その夜、門から不審な男が入ってきて、「あの男は人間の姿をした鬼だ」と陰陽師が言うものだから、一家揃って震え上がった。
その時その家の息子が、
「どうせ食われて死ぬなら少しぐらいはカッコイイところを見せよう」
と思い、その侵入者を矢で射た。
すると、まぐれ当たりか、その矢が侵入者に当たったのである。いきなり矢を射掛けられた侵入者はびっくりして逃げていった。そして陰陽師も唖然としていたと。
この陰陽師はかなりいいかげんな奴だったらしい。
このお話、穿った解釈をすると、この陰陽師と侵入者は共犯であったと考えられる。つまり、鬼のふりをして入ってきた仲間がその家の金品を奪って帰る。その後で「陰陽師がいたから家人の命は助かったのだ」と言いくるめるのである。ひょっとしたら、「私とこの結界の中にいる限り、鬼にあなた方の姿は見えません」とか言ってたかも。
だいたい超能力者とか霊能者なんてのは、こんなものである。
別の例を挙げよう。
雨が降らずに困っていたところ、陰陽師がご祈祷をすれば雨が降った。
これが事実だとする。
では、その陰陽師には超能力があったのか?
そんなことはない。
要するに、そいつは雨が降るまで何日でもご祈祷を続けたのである。
陰陽師が祈祷を始めてから雨が降るまでにどれぐらいの時間があったのかという重要な情報が抜けているのだから要注意である。
すべからく、超能力というのはこんなものなのである。
(続く)
【言っておきたい古都がある・123】