冥界編ハイライト(その7)
〜天人にだって欲望がある〜
地獄は下へ下へと下っていくが、天上界は上へ上へと上っていくという話。
【帝釈天の真実】
下天の上にあるのが忉利天(とうりてん)である。やはり地獄とは逆で、天上界は上へ上へと重なっているのだな。ここには33人の代表的な天人が住んでいるが、その中で一番有名なのが帝釈天。
帝釈天は仏法を守る神様であるから、東寺でも三十三間堂でも帝釈天像は衣の下から鎧をのぞかせている。『平家物語』ではこんな事をした平清盛が悪く描かれてたりするが、同じ事をしても帝釈天なら立派なことなのである。まあ、不公平といえば不公平だが。
帝釈天の住んでいる善見城には四つの庭がある。衆車宛(しゅしゃおん)、雑林宛(ぞうりんおん)、歓喜宛(かんきおん)、麁渋宛(そじゅうおん)という。
衆車宛にはいろんな種類の車が集められている。クラシックカーからスポーツカーまで何でもあり。
雑林宛ではやること全てが喜びに変わるという。逆に言うと喜ばしいことしかやらないわけだから、遊び人の天国ということ。
歓喜宛では心が安らぐという。でも、歓喜というとエクスタシーを連想するから、ここでの「心が安らぐ」というのは「行為」の後の安らぎかな。
麁渋宛は武器庫だ。帝釈天が仏法の敵と戦うためここに入ると「ヘンシーン!」というように武器が勝手に現れて帝釈天を武装させてくれるという。
こうなると帝釈天というのはカーマニアのプレイボーイでフリーセックスありの軍事オタクということになるのか。とてつもない神様なのである。フーテンの寅さんもビックリだろう。
ここで帝釈天に関する重要なエピソードを紹介しておこう。
前々回で帝釈天と阿修羅の戦いについて記したが、戦いのきっかけは帝釈天が阿修羅の娘をレイプしたからであった。そして戦いの結果、阿修羅が負けたのである。
それに匹敵するのが(今度は)帝釈天のほうが事実上負けたという話である。
【帝釈天、不覚!】
帝釈天はある仙人の奥さんに恋をした。やれやれ、阿修羅の娘といい、仙人の奥さんといい、女性関係の盛んな御仁である。
で、帝釈天はその夫の仙人が留守中(出張にでも行っていたのか?)を利用して仙人に変身し、奥さんを騙したのであった。
「あら、あなた早かったわね。お帰りはまだ先じゃなかったの?」
「思ったよりも早く仕事が片付いてね」(ここで奥さんに抱きつく)
「まあ、駄目じゃないの」
「いいじゃないか、誰も見ていないし」
こうして、まんまと想いを遂げた。
しかし世の中はそう甘いものではない。これが仙人にバレタのである。
怒り狂った仙人は、報復として帝釈天に呪いをかけたのだ。
ある朝、目を覚ました帝釈天は、ビックリ仰天、腰が抜けた。
なんと、身体中の頭から爪先まで千個もの女性器が付いていたのだ。
「やられた!」と思っても後の祭り。
仙人は笑いながら、
「お前、それが好きなんだろ。いっぱいあるね。嬉しいだろ」
と言って消えてしまった。
帝釈天の力でもこの呪いは解けない。これでは人前に出られない。天上界の視察にも行けない。
さすがの帝釈天も反省の日々を送る。
そして後帝釈天は心機一転、仏道修行にひたすら励んだ。
その甲斐あって千の女性器は眼に変化したという。以後、帝釈天は千眼天(せんげんてん)とも呼ばれるようになったとか。
めでたしめでたし。有難きかな仏法の教え。
しかし、全身目玉だらけというのもかなりグロテスクだと思うのだが。。。
あなたならどちらを選ぶ? 全身女性器? 全身目玉?
こんな連中がいる天上界に生まれ変わりたいですか?
【天上界も六道輪廻のうちだから】
何でこんなのばかりいるのかというと、天上界といえども、ここまではまだ地上と繋がっているからである。
ここから空中に住む天人の世界を紹介しよう。
まずは、そのものズバリ、空居天(くうごてん)と呼ばれている所。
ここは須弥山のてっぺんから80万キロの距離にあるという。だいたい地球から月までを往復する距離か。
この空居天も四層に分かれていて、一番下が夜摩天といい、ここは昼も夜も明るく不思議な歓喜に包まれている由。正に不夜城でエロもセックスもアリかも。
夜摩天の上にあるのが兜率天(とそつてん)である。ここには弥勒菩薩が住んでいる。弥勒菩薩は時が来れば人間界に降誕されるそうだが、兜率天の1日は人間界の400年に当たるらしいから、降誕されるのは何時になることやら。
さらにその上にあるのが楽変化天。ここの天人は自ら楽しい境遇を作り楽しむそうで、嫌なことは何も無いということか。
一番上は他化自在天。ここの天人は他人の楽しみを見て楽しむとか。かなり高尚だな。
ここまで見てきた六つの天界は「六欲天」とも呼ばれ。人間と同じように快楽を求める。ということは、他化自在天では不夜城の営みを覗いて楽しんでいるのかもしれない。
そう、この世界には人間界と同じように淫欲と食欲があるのである。
このような世界が宙に浮いているといえば眉につばをつけたくなるが、我々が住んでいる地球だって宇宙に浮いているわけだから、天上界を否定するのなら地球だって否定されるのではないか。そう、つまり、我々が住んでいる地球こそが、六道輪廻にある人間界なのである。ま、そうかもしれないということだが。。。
来週につづく。
【言っておきたい古都がある・49】