おにかいカフェ -prologue-
「わざわざ」ですから、その分取り返せばいい。
2Fから見える風景で、美味いコーヒーで。
「路面店(1階)でないと、商売になりまへん」。なんてことがまことしやかに言われるのが、京都という街である。それは何故かというと、京都人の臆病さというか慎重さがそうさせるのだそうだ。気になる店があったとしても、「外から中の様子を見て、自分が行けそうなら行く」からである。「とりあえず、行ってみよう」とはならない。
1階以外でそれ(様子見)をしようと思うと、わざわざ登っていったり、降りていったりしなければならない。それがおっくうということでも、疲れるということでもないんだろうが、もし、登った先、降りた先が「いきなり、店」だったら…。店員と目が合ってしまったら…。これはもぅ、入るしかない。「あ、ちょっと拝見してるだけです」が、どうやらできないらしい。というか、そうしないのがプライドというか、美徳というか、譲れないところらしい。
で、その店が服屋や雑貨屋だったらば、何となく物色するフリをして、「探してるものがなかったんで」的な顔で出てくればいい。ところが飲食店となると、とりあえず座って何ぞを注文しなきゃならない。そこで仕方なく飲む(食べる)のが、これがまた意に沿わない…。
とまぁ、京都における路面店の意味はそんなところにあるわけだが、リアルな話、1階と2階の家賃が2倍ほど違うケースもあるらしい。
そこで、である。このところ、2階のカフェ・喫茶が多いのである。ふと思いついて、指折り数えてみると…。あるわあるわ。これほどサクサクと、たくさん取材先が浮かんだのも久しぶりである。京都人のカフェ好き、喫茶好きについては、今までさんざん言ってきたし、特集も何度も組んできたが、今のテーマは「おにかい」であると結論。
もちろん、飲食店の中では単価の高い業種ではないということもあるだろうが、本誌がそんな大きなお世話を論じるよりも何よりも、実に個性的なカフェ・喫茶が多いことに気づくのである。そして、ここ最近の流れとしては、原点回帰というか、カフェから喫茶へ、というのがあるように思える。それは「カフェ的空間を売る」ということだけではなくて、「ちゃんと美味いコーヒーを出す」ということであったり(エスプレッソやカフェラテや、ちょいとストロングなコーヒーだったり、特徴や好みの差はあるが、どの店も美味いコーヒーを飲ませてくれる)、店舗エンジニアによる隙のない内装というよりも、何というか、生活感のような空気を大事にしているようでもある。
一部、3階や地下も含めて、こういう店には「打ち合わせ」とか、「待ち合わせ」とか、それだけで行くのはもったいない。何しろ「わざわざ階段を上がる」のだから。おかしな言い方だが、その分は取り返したい。何をもって? と言われれば、「のんびり」で。
どなた様も、ご多忙とは存じますが、忙中閑あり。読書など、するのもよろしかろう。カップルで談笑されるのも、これまたよろしかろう。「のべっ」とした時間を、存分に堪能していただきたい。この2階の店には、十二分に価値があるので。
「おにかいでないと、カフェや喫茶はできまへん」。
そんな時代が、来るかもしれません。