お精霊さんと京野菜
杯に大文字を写し 飲み干す
一昨日、お墓の掃除を日の出とともにはじめた。日中は熱中症が心配だからだ。
昨日、お仏壇を磨いた。日頃の疎遠が悔やまれた。きっと先祖様は小言を言っているだろうと思った。
そして今日、「迎え鐘」を珍皇寺で引き、先祖の戒名を書いた水塔婆に槙の葉で水をかけ、その槙の葉を持ち帰った。
お精霊(しょらい)さんが戻られてからの食事は、お精霊さんと共に精進料理で頂くのが我が家の習わしであったが、祖母と過ごした幼少の頃の思い出となっている。
何処からともなく風鈴の音がし、線香の香りが漂ってくると、今もありし日の夏が思い起こされる。
精進料理の材料は、仏前にも供えられていた。
坊ちゃん南瓜、柊野三尺ササゲ、加茂茄子、水茄子、賀茂トマト、万願寺とうがらし、キュウリ、サツマイモ、マクワ、小玉赤スイカなど。
勿論、夏の畑に勢ぞろいしている果物や野菜達である。
お精霊さんには毎日献立を変えたお膳が供えられていた。
その中でも決まって供えられていたものは、13日の「お迎えだんご」、14日の「おはぎ」、15日の「おこわ」、16日の大文字の日の朝は、「熱いご飯とアラメ」「お土産だんご」である。他に「そうめん」「野菜のおひたし」「のっぺ(野菜汁に葛を引いたもの)」などもあしらわれていた。
出汁は生臭さを慎んでか鰹節は使わず、昆布と椎茸で煮だすところは精進料理の基本である。薄味で、柔らかくて、さっぱりしたものを心掛けなくてはならないのである。
アラメを炊いた後の汁は真っ黒になるが、「追い出しアラメ」と呼ばれ、その汁を家の玄関に勢いよく撒いていた。それは、お精霊さんにそろそろ西方浄土へお帰りいただく呪い(まじない)だった。
この日の川原には、火のつけられたお線香にアラメや供え物が並んでいた。
確か、「瓜、枝豆、ほおずき、ささげ」は、どの供え物にも定番のように供えられていた。それらは「七種」(なないろ)と呼ばれていたように記憶する。
供えられている京の夏野菜で、「柊野三尺ササゲ」が意外に知られていない。三尺と名づけられている様に、その長さは1mにおよび、一房から二本づつ伸びている。お精霊さんに欠かせない上賀茂特産の野菜である。
その収穫時期は7月上旬から9月中旬頃までだが、量産されていないため貴重な野菜になりつつある。一種独特の風味があって、いつまでも柔らかい夾はお浸し物にし、おろし生姜に浸けだしが最高に美味しい。
お供え物の現物をご覧になるには、この時期の錦市場に出かけられると良い。
野菜ばかりでなく、果物、干菓子、蓮の花入りの供花、など多種にわたり並んでいる。
週内にお供物をお買い求めになり、送り火に焚く護摩木を志納されてはいかがか。
来週は、お精霊さんの帰り道が明るいようにと祈りながら送り火を見守り、杯にお酒を満たし飲み干してもらいたい。大文字を杯に写して飲むと無病息災に過ごせると言われている。
ならば、小生はその写る場所を探すことにする。