京漬物 / すぐき
上賀茂すぐきの秘められた効用
京の土と水で育くまれた京野菜を京の技術で漬けあげる。
沢庵という食品の域を超えた京漬物は、日本が誇る伝統食品に間違いない。
その京の三大漬物といえば、「千枚漬」「すぐき」「しば漬」があげられる。
「千枚漬」は昆布とかぶを自然発酵させたグルタミン酸の甘みが特徴であるが、乳酸菌発酵の酸っぱさを味わえるのが400年の歴史をもつ「すぐき」と、800年を誇る「しば漬」である。
制癌効果をもつ漬物の繊維質や、胃腸機能を活発にする乳酸菌は、保存食として考えられた漬物にある。味噌汁などとともに永く食していたことを顧みると、健康を自然に体得していた先人に頭が下がる。
さて、「すぐき(酸茎)」は、上賀茂特産のすぐき菜を、天然岩塩だけで乳酸(ラブレ乳酸菌)発酵させたもので、心地よい酸味とほんのり香る甘さが特徴の京漬物である。古くは皇族、文人墨客などに好まれ食されてきた嗜好品であった。ラブレ乳酸菌は海外では「マジックピクルス」と呼ばれている。
そのすぐき菜は門外不出の野菜として、洛北上賀茂だけで栽培される特産物である。
御すぐき處 なり田の十代目 成田善紀氏によると、「文化元年に出された『就御書口上書』には、すぐきはたとえ一本といえども他村へ持ち出すことを禁ず。と朱書きされていました。(中略)私どもはいまも原種を厳格に保存し続けていますが・・・」と。
更に、「毎年確保して種を採ります。種は黒茶色のケシ粒大の小さなものです。いい種を残すためにも農家同士で種を交換することもあり、良質の種を管理するのは大変です。上賀茂の東隣りの松ヶ崎は、かつて菜の花(菜の花漬に使用)の産地でした。すぐきと同じアブラナ科なので、交配するのをたいへん恐れていました。今も、上賀茂一帯では菜の花は作ってはいけないんです。」と語っている。
すぐき菜(別名: 賀茂菜)はアブラナ科カブラの変種で、葉が多く、繊維質の多い、大根に近いもので、漬物にするしか食し方のない野菜であるらしい。
11月初旬畑で収穫されると、その場で面取り作業を行い、更に丁寧に皮を剥き下漬けの準備を行なう。
一晩寝かせ、葉をつけたままの一個一個のかぶら部の首を揃えて、渦巻き状に樽の中へ並べ、重石をかけ一晩下漬される。
下漬後しっかりと洗い、並べるかぶら部の大きさを選別しながら、一段づつ、天然岩塩をたっぷりふりかけ、四斗樽に本漬けされる。
上賀茂の風物詩となっている昔ながらの天秤漬けの風景は有名であるが、平均に重石をかけることが重要である。すぐきの糖質を保存し、上がり水により、余分な水分を排出し、糖質の成分をよりよく凝縮させる過程だと聞く。
その凝縮された糖質が美味しい発酵への鍵となり、室(むろ)と呼ぶ温室に運び込まれ7日間乳酸発酵させられるのだ。
このすぐき、明神川沿いの上賀茂神社の社家(しゃけ)の一人が、京都御所から種子を貰い受け栽培したのがはじまりであるという。また、桃山時代の漬物としては最高級の品で、御所へ献上されていたのだ。
そして、すぐき菜の種は言うに及ばず、すぐき菜を他所へ出すことを禁じて、すぐきは社家間のみで珍重されていた。
その後、江戸末期に至り上賀茂一帯の農家で栽培され,京洛の街に売りに出されたのは明治以降になってやっとのことであった。
京に秘蔵されていた漬物「すぐき」を一度食されてはいかがか。
京都なり田
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