涼菓
京の柑橘冷菓 寒天の妙
京菓子屋はんに限らず、おまん屋はん、お餅屋はんにおいても、和菓子は季節感が鍵だ。
猛暑の最中、夏の菓子となれば、目と舌にいかに涼を感じさせるかが、決め手である。
涼しげな夏が演出された粋なお菓子に出会うと、暑気祓いを超えた贅を覚えるのは小生だけではあるまい。
夏菓子といえば、「水無月」「土用餅」「わらび餅」、「葛きり」「生麩饅頭」「水羊羹」と挙げてしまう。いずれにも「餡」や「きな粉」があるが夏に限ったことではない。夏に忘れてならない素材は「寒天」「葛」ではないだろうか。
贅沢な満悦感を感じさせてくれる夏菓子で、人気が高いのが柑橘冷菓系である。
「老松の夏柑糖」は夏蜜柑の風味に、苦味、渋味、酸味、そして自然の土の滋養味というか、実にそれぞれの絶妙なバランスがあって、秀逸で筆舌に表しがたい。
この夏柑糖のファンが小生の周りには多い。
その誰もが、「買って一日置いた二日目が最高に美味い」、と熱弁する。
夏蜜柑の中身をくり抜き、皮の器に再び注がれ、冷やし固められた果汁の香りと、寒天の織り成すコクは、格別の瑞々しい味の風物詩といえる。
流石、京菓子夏の王者に輝き続ける訳だ。
京菓子老松の夏柑糖は、春から売り出されお盆明けの20日に販売終了される。
時季を逸すれば京洋菓子の柑橘系ゼリーだ。フルーツパーラー・クリケットゼリー(平野神社西向)の「グループフレーツゼリー」と村上開新堂(寺町二条下ル東)の「オレンジゼリー」である。
前者は中央卸売市場の荷受業者の直営で、新鮮なグレープフルーツの酸味いっぱいの果肉がゼラチン状になってプリンプリンとしている。苦味が抑えられた滑らかな味を思い浮かべながら、黄色の皮蓋に手をかけるとワクワクしてくる。今やレモンとオレンジのゼリーも用意されていて、年中いただける按排である。
後者は明治37年創業の京都一番の老舗洋菓子屋さん。丸ごと果実容器の柑橘冷菓はここが発祥である。少し固めのオレンジゼリーにホイップされた生クリームをのせるところは、いかにも洋菓子である。甘すぎないさっぱり感が爽やかなオレンジ風味を楽しませてくれる。しかしながら、こちらはみかんが最も美味くなる12月にならないと頂けない上に、三日間しかチャンスはない。
最近お気に入りになった寒天冷菓でいうと、「大極殿本舗(高倉通四条上ル)のレース羹」である。
レースに見立てたレモンの輪切りが、レモン色をした寒天の琥珀羹に浮かんでいるように見える。お味は言うに及ばずで、清涼そのものである。レモンの酸っぱさで頭も体もリフレッシュできる。
第二次大戦前までは、日本の重要な輸出品だったと聞く寒天。
京都伏見の旅館『美濃屋』の主人・美濃太郎左衛門が戸外に捨てたトコロテンの乾物から発見し、宇治黄檗山万福寺の隠元禅師は精進料理に使えるものだと勧め、命名までもされた寒天。
テングサ(天草)、オゴノリなどの紅藻類の粘液質が自然凍結と天日乾燥を繰り返し作られた寒天。
美容と健康に、ノンカロリーでダイエットと騒がしい寒天。
寒天にも様々な件があるが、京菓子、涼菓として活用されている寒天が一番いとおしい。
フルーツパーラー クリケット
http://www.cricket-jelly.com/
みかんゼリーのご案内 (村上開新堂)
http://www.kaishindo.co.jp/products/orange.html
京都の和菓子
http://kyoto-wagasi.com/kyo-daigokuden/lace_kan.html