おちゃわん屋 樂焼
シチュエーション別喫茶店選択法
「樂焼 おちゃわん屋」 との古びた暖簾が架かっている。
格子戸越しには、その暖簾が玄関先の濡れた飛び石に届きそうな長さにみえる。
犬矢来を横目に進むと、その隣地に「楽美術館」がある。
「伝統とは単に守り踏襲していくものではない。伝統の中に何を見ようとするのか、
その視点によって伝統的な場に根差しつつもそこから生じるものはまったく新たな
作品として生まれ変わる。その視線こそが現代であり同時に我々の存在証明である」
楽歴代紹介のページに記されている宣言である。
「樂」とは、「樂焼」を継承する「樂家」の姓であって、樂家一族の焼物を指して呼称されている。
当代は十五代「樂吉左衛門」で、創始者初代「長次郎」が千利休のために極めた焼き物である。当時の代表的建築物であった「聚楽第(じゅらくだい)」の一字に因んで「樂焼」と名づけられたとある。
渡来瓦職人・阿米也を父にもつ焼物師長次郎は利休に出会い、その目に適い、茶の湯の為の一碗を焼き上げることに専念したのである。
それは桃山文化の華やかなりし時、建築、工芸、絵画、書、造園などの美術工芸に留まらず、哲学、精神分野をも含む総合的美意識が開花していたころだ。
「樂焼」と呼ばれるまでは「聚樂焼」と呼ばれ、そもそもは「今焼」と呼んでいた。
つまり、「今までにはない、前衛的な茶碗を焼く」という心構えであったようだ。
その前衛がどのように具象化されているかと見てみると、一貫したモノトーンの美意識や、ロクロを排した手ひねりの情感ある造形に徹しているという点である。
彩色は黒(黒楽)と赤(赤楽)に集約され装飾的図柄を持たず、変化や個性的造形を抑えた静寂性は特異な存在である。
その抜きに出たシンプル性に求心力を感じさせられる。
「利休の侘茶」「禅の無」との相関において、その精神を具象化した焼き物であるといわれる由縁であろう。
これらの作品群の「春期特別展・樂歴代の名品」が、6月11日まで開催されている。
美術館では「お手を触れないでください」が常識になってしまっているが、ここでは違う。
観賞するだけでなく、月2回の「手にふれる樂茶碗観賞会」は、実際に手にふれて見る事ができるのだ。
茶碗で言うと昔から「一楽、二萩、三唐津」と言われる。
古びた暖簾にある「樂焼 おちゃわん屋」の文字は、「本阿弥光悦」の筆によるものだということにも頷ける。
(春期特別展・樂歴代の名品/毎年日程が変わります。お確かめの上お出かけください。)
茶碗について (三輪清雅堂)
http://www5.ocn.ne.jp/~seigadou/chawan2.html
樂歴代紹介 (樂美術館)
http://www.raku-yaki.or.jp/rekidai/r1-j.html
楽茶碗を作る。(笠間玄眇窯)
http://homepage1.nifty.com/rakutyawan/