誇れる京の鍋あれこれ
千ぶらして 日本一のまる鍋食べよか
「上(かみ)で食べよか!」 というのは、「上七軒」を指していた。旦那衆がよく使っていた用語である。
転じて北野あたりから千本中立売、西陣界隈を指すこともある。
一方、「東で飲もか!」と言うと、京都の東、鴨川の東にある「祇園」を指している。繁華街や歓楽街というと、つい四条河原町を中心としたところが思い浮かべられるが、かつては、西陣周辺であった。
「千中(せんなか・・・千本中立売)」はその中心地である。
「千ぶらせぇへんか」と言えば、西陣のど真ん中である千本通の今出川通から丸太町通までの3kmほどを、ぶらぶらと散策することである。
これを「千ぶら」と呼んでいた。
150mほどに続く「西陣京極」には、西陣キネマ、大映国際、西陣東映、千中劇場が軒を連ねていた。小説から映画にもなった「五番町夕霧楼」は、その西北辺りにある。
この一帯の町並みは、普段着に下駄履きがよく似合うところだと、小生は思う。
その千本通の下長者町通を西に入ると、メニューにすっぽん鍋しかない「大市」がある。京野菜も何も入っていないすっぽんだけの「まる鍋」は、全国的にも有名である。
その鍋は必見に値する。すっぽんの脂が永年しみ込んで、銅色に光る信楽焼の土鍋が赤くまた青白くなり、その温度の高さを伝えている。
すっぽんの不飽和脂肪酸と醤油と酒塩が、高熱の土鍋とだけで織りなす美味を、玉子でとじた雑炊は類ない旨さである。
京料理の右に出て世界に誇れるものであると信じている。
京の西陣の旦那衆が、後世に残した数々の逸品の一つと言える。
甍の波の光景が美しく人気を博す西陣には、町衆のつくった着物の歴史とともに食の歴史を見ることが出来るところでもある。
次に、至上のすっぽんの値段ではなく、ほどほどの値段で美味い老舗というなら、下(しも)の「たん熊本家」が良い。元来は京割烹の名店で、粋な器で京料理をいただけるところだが、すっぽんとふぐに定評があり有名なところである。さすれば、すっぽんか、てっちりの小鍋をフィーチャーするのが常道である。
とことんリーズナブルに旨い鍋で温まろうというなら、ちゃんこ鍋はどうだろうか。
京都ちゃんこ鍋の草分けである「陣の花」は一押しである。昭和6年四股名(しこな)を屋号として、ちゃんこ鍋を始めた老舗である。ここのスープはそのまま飲むに値するほどで、具材の鮮度も良い。つみれに至っては、持ち帰りに分けて欲しいと、いつも思うほどであった。ノスタルジックな個室の人の温もりは今も思い出される。現在廃業してしまっているので、もう口には入らないのが残念だ。
宴会シーズンで、気取らず使えるところというと・・・・。
冬季限定だか、白味噌ベースのだしの新風ちゃんこ鍋をメニューにした「加茂川新館」、豆乳ゆばをベースに京具材に拘ったメニューにトライした「桃次郎」と、リーマン向けのチャレンジメニューは騒がしくなってきている。
上(かみ)の出だしから、東(ひがし)へと梯子してしまったが、やはり、夕げの鍋が恋しい歳の瀬である。
すっぽん料理 「大市」
(上京区下長者町通千本西入)
http://www.suppon-daiichi.com/
京料理 「たん熊本家」
(下京区木屋町通仏光寺下ル)
http://r.gnavi.co.jp/k007200/
政府登録国際観光旅館 「加茂川館」
(中京区三条大橋西詰)
http://www.kamogawa-kan.co.jp/Meal/chanko.htm
豆乳湯葉ちゃんこ 京都祇園 「桃次郎」
(東山区新橋通大和大路東入)
http://www.rakuten.co.jp/momojiro/index.html