スローインテリア / 京町家の衣替え
昔ながらの涼をとる法
「皐月の床」から「本床開き」の声が聞こえだすと、京町家では「建具替え」のシーズンとなる。
つまり、夏支度である。
京都盆地の夏は湿気が多く蒸し暑いゆえに、涼をとるための夏の設えを凝らす習慣がある。
この習わしは、エアコンのスイッチひとつで済ませられる現代家屋でも、行われることが多い。
さすがに、戸締りは厳重に行い眠りの床につくことは常識となっている。
しかし、蚊帳を吊ることは、はるか昔の光景となった。
「建具替え」は、まず秋口から使っていた障子(しょうじ)や襖(ふすま)を取り外し、葦障子(よししょうじ)や簾(すだれ)に取り替える。そして、畳の上には網代(あじろ)や籐むしろを敷く。
欄間(らんま)に屏風(びょうぶ)も夏仕立とすると、床の間の掛け軸や、暖簾も替えたくなるのが自然である。
それは何よりも「涼しげ」「涼やか」という見た目や、感性を重視する文化があるからである。
勿論、葦は風が吹き抜け頬を撫でてくれるし、網代のひんやりとした感触は足裏に伝わってくる。
川床で夕涼みしながら、涼しげな器に盛られた鮎や鱧をいただくのも感性が重要だ。
エアコンの効いた部屋の方が近代的だ、などと無粋なことは言わず、洗練の妙を感じてもらいたい。
今では、これらをして最高の贅と呼んで過言ではないのだ。
鰻の寝床といわれる京町家の通り庭を通る風は、風鈴の響きを引き出してくれている。
土間や玄関先の石畳に打たれた打ち水は、風を一層冷ややかにしてくれる。
外からは中がよく見えない格子越しに、部屋内から通りを行く日傘に単衣(ひとえ)姿の女性を眺め、格子にかかる朝顔の色を楽しむのも風情がある。
「徒然草」に「家の作りは夏を旨とすべし」とあり、それに習い建てられた京の町家が一番美しく見えるのだが、建築基準法で町家は「既存不適格」ということらしい。無粋な話である。
そもそも、建具替えでポピュラーな簾はというと、平安時代、高貴な方の姿を隠すため使われていた「御簾(みす)」がルーツである。これからヒントを得た二代目近江屋源兵衛は天保2年(1831年)にこれを考案し、簾商を営んだと聞く。この頃より俄かに町衆に広がったのだ。
ともあれ、ガラスのボウルにビー玉を落とし、野花を浮かべ、網代ぐらいはリビングに敷いて、風鈴を楽しまれてみてはいかがだろうか。
テーブルクロスを藍染に替えてみるのも良い。
虫干しと衣替えのこの時期にご一考あれ。
竹とすだれ 西河
https://www.kyoto-sudare.jp/
『伝統』への視点 ── 京町家から考える (Insight)
http://www.kepco.co.jp/insight/content/column/column039.html
京町家net
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