花灯路の夜話
東山界隈をそぞろ歩いて京の味を求める
花灯路の宵の食事となると、東山界隈で予約することになる。
どこへ往けば良いか、いいころを紹介してほしいと、よく問われる。
即座に答えるのに困るのである。
小生の価値観でのお奨めどころを問われているなら、いとも簡単なことである。
また、問われる方が考えている「いいところ」の意味がすぐにイメージできる間柄の場合も容易い。
「誰と行くの」と、問えばいい。
ところが、イメージができない場合、人それぞれにお値うち感や満足度に相違がある故に、即座に答えるわけにはいかない。
いきおい、旅行代理店の窓口嬢さながらにならざるを得ない。
「お一人様のご予算は・・・。合計何名様・・・」
「ご家族で・・・。ご商談、ご接待で・・」
「和、洋、中、フレンチ、イタリアン・・・京料理・・・いかが・・」
「座敷、小上がり、掘ごたつ、 テーブル、カウンター・・・お席は・・・」
などなど、マニュアル通りにまくし立てる始末である。
それらを聞かずして、「あんじょう頼んます」と言われても、「あんばいよう」には、出来ないのである。
何れも便利な京ことばであるが、互いにご贔屓の間柄で心許すもの同士でないと、行き違いを起こすことばでもある。
「あんじょう」とは、「味よく」が「味よう」に転じ、「味」が強調され「あんじ」となり発せられている言葉で、「うまく、上手に」との意味である。
一方「あんばい」とは、安排、塩梅などと書き、「程よく配置する」、「塩と梅の酸味で味を調える」の意で、やはり「うまく、いい具合に」という意味である。
どちらの京ことばも、「食」を基本にしているものの、種々の味わいを評価することばであるから厄介なのである。
さて、東山花灯路の道すがらに点在するお食事処の定番を羅列してみる。
神宮道を歩きだす。
青蓮院のまん前に「吉水庵」「楠荘」があったが、今は昔のことでマンションに様変わりしている。
今も変わらず京料理がいただけるところは、「京懐石美濃吉 竹茂楼」に「京料理 粟田山荘」である。南禅寺界隈に比べて青蓮院界隈には少なくなった。
竹茂楼は1万円から2万円の予算で川魚を中心に、粟田山荘は1万円から5万円の予算(一名あたり)で厳選された旬の食材の持ち味をいかしたメニューが選べる。
青蓮院、知恩院と行灯に照らされた道を進むと、円山公園に入る。
円山公園では、青竹灯籠の灯りなどのライトアップが楽しめる。
その公園を見下ろすように囲み、山手への南側道路沿いには、「京料理いそべ」「京料理東観荘」「料亭 左阿彌」など食事処が並ぶ。1万円内外で押さえたいならこの辺りにある。
公園内なら、「未在」か「長楽館」に絞り込むのが利巧である。
長楽館にあるビクトリア様式のダイニングレストラン「ル・シェーヌ」のネオクラッシックなフレンチはお奨めできる。2万円から3万円の予算がきつければ、同館内の「テラスレストラン コーラル」でカジュアルフレンチでもよい。
茶懐石仕立ての京割烹「未在」は、隠れ家として格段上の穴場である。ここなら2万円で京都通を気取れる。
円山公園を後に八坂神社に参詣し、南楼門から高台寺に向かって下河原を進むと、「二軒茶屋中村楼」を皮切りに、「料理旅館 祇園畑中」「懐石 美濃幸」「板前割烹 浜作」など京料理の超有名店が立ち並ぶ。
勿論、高台寺の周りには、「菊乃井」「高台寺和久傳」、維新の道に向かうと「山荘 京大和」「料亭 高台寺土井」などなど、枚挙に暇がない。これらは京料理ガイド本に詳しいので譲ることにする。
それでは飽き足りないという方に、花灯路の宵の食事処として挙げるなら・・・。
京料理なら、ずばり料亭「高台寺閑人」。
新しい伝統を紡いでいるといえる京料理の最高の粋が、1万6千円でいただける。
創作フレンチで下河原の「レストランよねむら」。
京野菜がふんだんで、箸でいただき、器と料理で饗応してくれる。
銀座店も人気を博し、写真集 Restaurant Yonemura のフランスでの授賞を皮切りにミシュランの星は言うに及ばず、ワールド・グルメ・サミットへの連続招待参加と、海外戦略へと更なる前進が続いている。
石塀小路のビストロ石原。近江牛のステーキがセットされたコース料理8千円は、コストパフォーマンスが非常に高い。大人の灯りとBGMで流れるジャズの選曲も良く、何より遅がけの食事もできるのだ。クローズは23:30である。
イタリアンの「イル ギオットーネ」は、予約が取れないことで有名になりすぎた感もあるが、花灯路の宵に八坂の塔の隣の立地は、他に勝る場所はない。
しかし、予約が取れないからといって木屋町仏光寺のクチネリーアにというわけにも、花灯路の宵にはいかない。困ったものだ。
そこで、1万円(税・サ別)のディナーコースで勝負を挑んでいる強豪イタリアンは「リストランテ キメラ」となる。
八坂神社南楼門前、大谷祖廟の坂の入り口、祇園畑中の隣に店を構えている。大阪北浜は「ポンテベッキオ」の元料理長が独立してのオーナーシェフの店である。
少々羅列が過ぎたが、石塀小路界隈は誠にステキなところである。
あまりに、のんびりと食事を取っていると、ライトアップも露地行灯も消えてしまう。
どこへゆくかは、皆さんのご判断で、あんじょう頼んます。
小生も足元の明るいうちにペンを置く。
京都 花灯路
http://www.hanatouro.jp/index.html
京ことば
http://nozomi518.fc2web.com/language/kyokotoba.html
石塀小路の路を歩く
http://www.kyoto-gion.jp/michi/1/ishibei.html