花灯路
春の宵 ゆらめく灯り
夕刻6時、東山石畳界隈の路肩に灯りが点った。
青蓮院から清水寺にかけての東山の麓の散策路は、「露地行灯」の明かりのゆらめきに、京らしい空気が漂っている。
華やぎのある柔らかな灯りに、行き交う人々の幸せそうな顔が映し出され、絶えることがない。
辺りの木のゆらめく陰影や白壁、土壁に京町家も、ライトアップされた寺社に競うかのように、凛とした和の佇まいを際立たせている。
桜の咲くまでのエンターティメントに企画された東山花灯路(はなとうろ)は、すっかり京の春の名物行事になったようだ。
明かりのエンターティメントで言うなら、神戸のルミナリエや東京のミレナリオ、六本木ヒルズをはじめとする各地のイルミネーションの目指す対極にあるのが、「花灯路」である。それは見事に京文化を語ってくれている。まさに心を癒してくれるやさしさを持っているのだ。
「花灯路」の宵は日本人のDNAが刺激されるのだ。
和の佇まいだからではない。風流(ふりゅう)を善とする京の心意気が結晶している。そこに賛美を贈りたい。
散策路界隈の4.6Kmには、京焼・清水焼、京銘竹、北山杉磨丸太、京石工芸、金属工芸など、伝統技術の粋を凝らした「露地行灯」が2500個も置かれている。
味わいのある散策を楽しむ途中には、寺社のライトアップが更に演出効果をあげている。
青蓮院の庭が浮かび上がる光景は神秘。
夜空に高く浮かびあがる知恩院三門に見るものは存在感。
円山公園の川を表す竹灯りはまさに幽玄。
高台寺圓徳院の境内庭園では竹林などが優しい光に包まれ、夜空に向かう清涼。
散策路で幾度となく目に飛び込んでくる八坂の五重塔は荘厳。
清水寺の伽藍にある赤が天高く燃える様は昇華。
である。
しかし、界隈住民や商店の協力を得ているものの、中には、も少し外灯や室内灯を暗くして貰いたいと思わせる無粋なところもなくはない。
一方、最も美しいエリアは石塀小路である。これを否定する声を聞いたことがない。小路の風情に見合った佇まいに、打ち水や薄明かりの街灯など、その心配りを見習いたいものだ。
そして、散策途中にあった清楚な一輪挿しが強く記憶に残っている。
ライティングされたオブジェや大作いけばなもさることながら、一輪挿しに感動した。
茶室の床から語りかけてくる花をご存知だろうか。薄暗い明かりのなかで同様の感覚を覚えたのだ。
小生は、高台寺公園の華舞台や舞妓さんを乗せた人力車行列などのアトラクションよりも、今回はさりげない一輪挿しに心を揺さぶられた。
様々な表情を見せる「花灯路」の灯りのなかに京の町並みを堪能され、京の「はんなり」を是非体感してもらいたい。
「日本に京都があってよかった」と、あの名文句をきっと口にされるだろう。
京都・花灯路推進協議会
http://www.hanatouro.jp/