おことうさん
京の迎春準備の習わし
師走を迎えた。
京都の師走といえば、「だいこ焚き」に「煤払い」に「をけら詣り」である。
もう一つと問われると、「始めと終い」をあげたい。
なぜなら、歳時記には「事始め」があり、「しまい○○」が立ち並ぶからである。
清水寺の鎮守として大国主命を祀る地主神社では、「しまい大国祭(12/3)」で今年一年の祭事を締めくくり、来る一年の無病息災・開運招福を願い、新年の干支の絵馬が授与された。
これからだと、安井金毘羅宮の「しまい金毘羅(12/10)」がある。事前予約をしておかないと授かれないが、新年の縁起物「商売繁盛・宝の入船」が、未だに手に入れられないでいる。ここは「稲宝来」の授与で納得せざるを得ないのだ。
12月後半には、東寺の「終い弘法(12/21)」に北野天満宮の「終い天神(12/25)」がある。縁日の露天商から、正月準備を買い揃えるのは古くからの習わしである。
そして平安京東北の鬼門を守護する狸谷山不動院の「しまい不動(12/28)」での護摩供養で、ほんとに仕舞いである。
つまり、町中が「終い、しまい」と動きながら、迎春準備を行っているのだ。
真に京都らしい言い回しだと思う。
そんな「終い」表現のなかで、ズバリ直球で言い放っているのが「事始め」である。
「御事多さん(おことうさん)」という京言葉は、色々と正月準備が多くなって、忙しくなってきたという意味だ。
12月13日の「祇園甲部の事始め」の様子を、TVや新聞が報じるのは毎年の恒例になっている。
芸妓、舞妓さんが、京舞井上流家元井上八千代さん宅へご挨拶に伺うシーンである。
「おめでとうさんどす」 「おたの申します」
「よう、おきばりやした」 「おきばりやす」
今年一年のお礼と来年のあいさつを行っているとのことだ。
そして、家元八千代さんから、芸舞妓さんは舞扇をいただく按配である。
家元宅のシーンで、たくさんの鏡餅が飾られてあるのにお気づきであろうか。
あの鏡餅は挨拶に伺ったお弟子さんから師匠宅へ届けられたものである。
鏡餅があるところからも、迎春、お正月の準備を始める日であることが判る。
この「事始め」は何も井上八千代さん宅だけの習わしではない。
京都を中心として関西では昔からある「しきたり」で、弟子が師匠宅へ伺うように、つまり、お世話になった方のところへご挨拶に伺うのが常識で、花街に限らず、特に芸事や習い事の世界にも、老舗商家、社寺にもある習わしなのである。
13日といえば、年の瀬に向けて最も慌しくなる頃であるが、旧家ではお歳暮をお贈りするのもこの日からである。
聞くところによると、江戸時代の幕府の正月準備も12月13日からであったらしい。
どうして、事始めを13日にするかというと、それは琴の弦が13本あるからだ。
とは、洒落ではあるが。
しまい大国 (地主神社)
http://www.jishujinja.or.jp/
しまい金毘羅 (安井金毘羅宮)
http://www.yasui-konpiragu.or.jp/index.html
終い弘法 (東寺弘法市)
http://www.touji-ennichi.com/
終い天神 (北野天満宮)
http://www.kitanotenmangu.or.jp/
http://www.tanukidani.com/top.html