晴明祭の憂鬱
陰陽道でも封じられぬ人の業
京の町は秋祭りが始まっている。
秋分の日は陰陽師として名高い安倍晴明公を祀る晴明神社の例祭晴明祭である。
そして、9月26日の命日には、天龍寺の塔頭寿寧院の境内に近い墓所にて、嵯峨墓所祭が執り行われる。
しかし、ハレの祭礼であるのに今年は心が重い。
何故かといえば、同所同番地にある民間会社と晴明神社との、昨年来よりの訴訟にまで及んだ対立があるからだ。
今も、神社のホームページのトップには、「晴明神社よりの大切なお知らせ」としたリンクページに、目にしたくない平成23年10月27日発信の「謹告」が公開されている。
陰陽師で祭神であるところの安倍晴明公も、式神と顔を合わせて呆れているのではないだろうか。
あの陰陽師の一大ブーム以来、昨年の対立まで上手く和合していたのだろうから、対立問題が起きたとしても、京都の恥を世間に晒すようなことにはしないで貰いたかった。
こうなれば、是非とも呪文と印を結び、早々にこの対立を封じ込め解決して貰いたい。
正に、晴明さんの出番ではないか。祈るしかない。
2012年1月26日に京都新聞などマスコミが報じた内容に基づき状況を纏めると、こうだ。
2011年8月、晴明神社が田島織物に対し、晴明関連グッズ販売は不適切と文書による販売中止を要請した。
同年11月、晴明神社は、参拝者に対し、該当グッズの持込禁止など「謹告」に記した同文の看板を設置した。
同年12月、田島織物は、同社販売の晴明関連グッズの持込禁止を伝える設置看板が営業権侵害にあたるとして、晴明神社の妨害排除の仮処分を京都地裁に申立した。
その看板や謹告の内容には、
「当神社南隣の田島織物株式会社(陰陽師本舗)で販売されています「陰陽師グッズ」や「開運グッズ」等々は、神社でおはらいや御祈祷をしたものではございません。また、何らの関係もありません。
こういったものを近隣で、販売することそのものが不適切で、神社の御祭神・安倍晴明公の御神徳を著しく冒涜するものと考え、同社に販売の中止を申し入れました。が、未だ改善の様子がないどころか、事態は深刻なものとなっています。
参拝の各位におかれましては、事情をご賢察いただき、下記の点ご留意ください。
記
一、田島織物株式会社の「陰陽師グッズ」、「開運グッズ」等を持ってのご参拝はご遠慮ください。
一、同「グッズ」は、御札、御守とは言えません。納札所には決して入れないで下さい。
一、同行為をされる方については、法律上、信仰上の立場から事情をお伺いすることがあります。ご協力願います。以上」とある。
一方、陰陽師グッズを販売する田島織物株式会社(陰陽師本舗)はというと、
「ご来店ありがとうございます。
晴明神社のご了解を得て、「陰陽師グッズ」の販売を始めて10年になりました。皆様のご支援のおかげと感謝しております。
そこでこの1年間を、10周年記念期間とし、特別価格販売、新商品掲載等、順次いろいろの企画を催します。
ご支援のほど、お願いいたしますとともに「ご希望欄」よりご意見賜りますようお願いいたします。」と、同社ホームページに謳っている。
そこへきて、2012年2月22日朝日新聞デジタルの、「晴明グッズもう作りません晴明神社と対立の土産物店」(村上晃一氏記名記事)は、店側は京都地裁に申し立てた仮処分を20日付で取り下げたこと、神社との対立を避け晴明の名のつくグッズの製造・販売をやめることで決着させたことを報じていた。
和解成立かと勘違いしていたのは小生だけだったのか。
今もなお対立、膠着状態のようである。
晴明神社の「謹告」もそのまま、お札の授与所のほかに境内に設けられた晴明グッズを販売する「桔梗庵」の「晴明神社公認」の声が大きくなっている。
また、陰陽師本舗のホームページに掲載される約2千種類のグッズアイテムもほぼ変わらず、小生の気づく限りでは、晴明さん人形がなくなり、「安倍晴明」と記されていた文字がなくなっていた点ぐらいである。
つまり、「晴明グッズ」が「陰陽師、五芒星グッズ」と譲歩された変化を見たというだけであった。
小生の見る限り、双方ともに法律で争うことに馴染まない問題である。
田島織物の販売していた晴明グッズや名称使用については、五芒星(晴明神社の神紋)は公知の意匠であり、安倍晴明は歴史上の人物であるから、法的には晴明神社やその他誰の許諾も必要のないものであること。
にもかかわらず、昭和30年に晴明神社南隣に移転してきた田島織物は、「正絹般若心経ネクタイの田島織物」として業界の信を得、西陣の斜陽を生き残るべく平成14年2月、陰陽師ブームに乗じ、晴明神社の了解をも得て陰陽師グッズの製造販売を開始し、氏子町内の一員として神社への寄進、奉仕を行ってきている。
晴明神社も、境内における作法としての告知、お願いを、看板設置など公開で行ったまでのこと。その結果、田島織物(実店舗名/陰陽師グッズ・ウエブショップ名/陰陽師本舗)の売上増減に影響があってもその責にはない。
どう見ても、大人気ない意固地な喧嘩にしか映ってこないのである。
参拝するものにとって穏やかでないことは嫌なことで、折角、心の安らぎを得ようとして来ているのに、災いの連鎖を齎されるのでないかと心配になり、足が遠のくのではないだろうか。
この対立を、「陰陽師ブームの齎した功罪かもしれんな、氏子神社が観光神社となり、販売収入の財源は見過ごせないだろな」とか、「商売仇の代理戦争やな、寄付金の額で手が打てないのかな」と、小生の知人たちは口を揃えていう。
小生は、その対立の実態を窺い知れないが、陰陽師ファンをなくし、折角の晴明ブランドが地に落ち、ひいては晴明神社のご利益に信仰心を無くされないかと憂うばかりである。
この対立で迷惑を蒙るのは、崇敬する信者や参拝者であり、氏神として奉仕している氏子町の住人ではないだろうか。
揉め事や争いを齎す神社を信仰していることは自慢にはならないからである。
パワースポットどころか、利権人気スポットとあざ笑われるのがオチである。
こんな状況を晴明公も望んではいられない筈である。
願わくば、万難を廃し田島織物と桔梗庵を統廃合して新会社とし、新会社が晴明神社のトップ寄進者になるのがよい。それが小生からの提案である。
晴明祭がまもなくである。
宵宮祭での湯立神楽で頂ける晴明饅頭のお下がりが、今年は口に苦い気がしている。
神幸祭での少年鼓笛隊、扇鉾、八乙女、神輿を思い浮かべたが、災厄除けが叶うのか憂鬱である。
争っていては誰も幸福にはなれない。
晴明さん、お膝元の災厄を鎮めては貰えないか。