地蔵菩薩と小野篁
冥土通いで見たもの
8月24日の地蔵盆は今も続いている地蔵信仰の行事である。
この信仰の起源は、苦しむ人々の救済のために、自らが地獄の炎熱に焼かれ、身代わりとなって働いた地蔵菩薩の姿を、満慶上人が見たことに始まっている。
師弟関係にあった「満慶上人」と「小野篁(おののたかむら)」は、奈良大和郡山の矢田寺に820年「地蔵菩薩」を建立した。これが日本最古の延命地蔵尊である。
そして845年、五条坊門に矢田寺別院を建立し、炎に包まれた地蔵菩薩を本尊とした。これが現在中京区寺町三条に移転した矢田寺である。お精霊さんの「送り鐘」を撞くところとして、京都では広く知られている。
満慶上人が地獄での地蔵菩薩の救済の姿を見るに至ったのは、小野篁が「閻魔(えんま)大王」に面会させる取り持ちをしたときであるという。
ある時、六道の行き先を決める閻魔大王が三熱苦に悩んでいたところ、閻魔大王の補佐役としてあの世とこの世を行き来していた小野篁は、満慶上人の行う菩薩戒で閻魔大王の苦しみが取り除けないものかと、特別の許可を取ってのことである。
そして、その菩薩戒で見事に閻魔大王の三熱苦は取り除かれたという。
この時に見た地蔵菩薩の功徳を、この世に持ち帰り説かれたものが、今日の地蔵盆に繋がっている。
では、この篁の存在とはどんなものであったのだろうか。非常に多才で怪奇な人物であるとの評を聞くのだが。
昼は宮廷に仕え、鳥辺野(祇園、円山公園の一帯)の整備事業に大層尽力し、夜になると「死の六道珍皇寺」より「閻魔大王」の元に通い、そして仕え、地獄行の裁判補佐官とも言うべき役割を担っていたという伝説が残っている。
また、「百人一首」の歌人であり、武芸百般に優れ、漢詩では「白楽天」とまで言われ、後世に記された「篁物語」では、異母妹までも愛する恋多き貴族である。
延暦21年(802年)に生まれた篁(〜853没)は、滋賀県志賀郡志賀町の「小野篁神社」に祀られている。そこは小野一族の氏神「小野神社」の境内である。
そこには篁の孫になる「書家 小野東風」の神社もある。
聖徳太子の命で遣隋使に派遣された「小野妹子」は先祖にあたり、篁が33歳で遣唐使福使を、嵯峨上皇より任命されたのも小野一族の因縁であったかも知れない。
小野神社の祭神は、米餅搗大使主命(たかねつきおおおみのみこと)で、応神天皇の頃に日本で初めて餅つきをしたと伝えられ、菓子づくりの神様であり、10月20日には菓子業界の大祭が行われ、京菓子業界からの参詣者も多い。
このように、歴史に残る優秀な者を輩出している家系が生んだ時代の寵児篁の言行は何を伝えたかったのであろうか。
閻魔大王の信頼を受けていた篁が毎夜通った六道の辻、辻は異界への境界とされている不思議なところである。その辻に通りかかると、突然ふっと冥界へ迷い込んでしまうかも知れないと誰もが思っていた。
「草木みな能く物言う」と記されているように、古来より、先人は自然界に精霊を見出していたことは分かる。更には神を感じ取り、「神霊の仕業としか思えない怪奇現象が起きた」、という噂の絶えない場所も多数ある。
賢者は、何かを伝えようと、怨霊を妖怪や異形の者に例え、語ったのであろうか。それとも見うべし者だけに見せていたのであろうか。
それらの全てを知り尽くしていたかのような人物が、篁であるように思う。
華やかな都には、その華やかさと同数に魔界があり、魑魅魍魎とした怨霊を御霊とする術が必要であったのだろう。信仰のシンボルとなる遺産は観光名所となっているが、そこには光と影が必ずあったはずだ。
平安時代の御霊信仰は永らく続いている。
そして、平安の異才安倍晴明や源博雅が誕生するのは、篁の死後数十年後のことである。
その後、人は科学文明社会に向かい豊かな物質の中に生活しても、科学的立証のつかない御霊を否定することが少ない。スピリチュアルというものがブームにまでなっている。
勿論、町内行事として今も、地蔵盆は変わらず行われ、そして、六道の辻には今も「幽霊子育て飴」を売っている店がある。
参議篁 (小倉百人一種/水垣久)
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/100i/011.html
小野篁(岩井國臣・秋山虔)
http://www.kuniomi.gr.jp/togen/iwai/takamura.html
小野篁 (平安大辞典)
http://heianjiten.fc2web.com/ono_takamura.htm
篁物語 (露草色の郷)
http://homepage2.nifty.com/toka3aki/utamono/takamura.html
ROOM 1 琵琶湖の風物詩
http://homepage1.nifty.com/~sakuranamiki/room1ww.htm
小野篁と紫式部の墓 (京都新大宮商店街)
http://www6.plala.or.jp/sin-oomiya/sikibunohaka01.html
六道珍皇寺 (とんでもとらべる)
http://www3.kcn.ne.jp/~mamama/kyoto/temple/rokudo-chinnou-ji-temple-01.htm
西福寺
http://www.kyoto-tv.com/makai/saifukuji/saifukuji.html
六波羅探索 (ワンダーランド)
http://www.kit-net.ne.jp/wonder/topic/rokuhara/rokuhara.html