1300年の劣化を再現・綴織で創生された「蓮華弥勒像」
二つの仏様の綴織額が掛かっている部屋に案内された。
見覚えのある右の「悲母観音像」は、 川島織物セルコン織物文化館で見たことがあるもので、
平安建都1200年の年(平成6年)に、手織りの技術継承を図ろうと織られたものだと記憶している。
因みに、10億円の買値が着いたという話も聞いている。
どうやら、左の半跏思惟(はんかしい)像が本日のプレス発表で初公開されるものの様である。
どうみても、右より左の方が随分と古びているのだが・・・・・
綴織「蓮華弥勒像」制作プロジェクトのコーディネーター小倉一夫氏の説明が始まった。
この像は、MIHO MUSEUMの設立母体である宗教法人神慈秀明会の助成によって、原画制作を愛知県立芸術大学が、織制作を株式会社川島織物セルコン(以下川島織物)が担当し、平成24年末に完成した綴織作品です。
織下絵の原画は、愛知県立芸術大学美術学部模写研究会により、同大学の秦誠教授をはじめ多くの専門家の協力を得て、法隆寺金堂壁画第2号壁「半跏思惟像」を模写した日本画家・片岡球子の作品(愛知県立芸術大学所蔵)をベースに制作されました。
法隆寺壁画に見る精神性を甦らせるために、古代オリエント関連の史資料や、壁画焼失前の模写・写真を参考に、最新のCG技術も駆使して失われた菩薩像本体の細部表現を補い、破損のあるお顔や眼には新たな表現が加えられました。また、1300年の時の重みを作品に織り込むために、壁画に残された経年変化が可能な限り表現されました。
織制作は、新たに創生した「蓮華弥勒像」を原画として、170年の歴史に培われた西陣織の伝統技術を持つ川島織物のプロジェクトチームによって、設計図となる織下絵が制作され、6000色もの糸が染色され、4人の織職人の手で織り上げられました。
経年による変化を織り込むことで、綴織作品に時間を昇華させるという前代未聞の挑戦となったプロジェクトは、最新のテクノロジーと伝統の織物工芸の粋を融合して、3年の歳月ををかけて完成しました。(プレスリリースより)
綴織「蓮華弥勒像」(つづれおり・れんげみろくぞう)
製織 川島織物セルコン 平成24 年(2012 年) 縦2010mm×横1050mm
蓮華弥勒像制作プロジェクト関係者名簿
制作総指揮 田邉 純夫 (川島美術織物研究所常務理事)
原画制作統括 秦 誠 (愛知県立芸術大学教授)
原画制作 愛知県立芸術大学美術学部模写研究会
織制作 株式会社川島織物セルコン
① 織下絵制作: 浅野 公造
② 染色担当: 井田 宣治
③ 製織担当: 小谷 靖、小島 幸子、池谷 広美、森田 弘蔵
④ 織下絵担当: 浅野 公造、 大久保 幸子
⑤ 原画担当: 浅野 公造
⑥ 織設計担当: 宮口 武、小林 弘明、井上 光二
コーディネーター 小倉 一夫
協力 法隆寺
秋田県大仙市教育委員会文化財保護課
大仙市総合民俗資料交流館「くらしの歴史館」
左/蓮華弥勒像 ・ 右/悲母観音像
狩野芳崖(かのうほうがい)の原画を元に織られた平成の悲母観音は、その荘厳華麗な表現を現代の織工芸技術の粋を駆使して 忠実かつ完璧に写しとり、その筆致を 「織」によって昇華させた。製織に使用された糸は、 プラチナ糸を含む4500色の色糸で、 色のグラデーションと工夫を凝らしている。
それに勝る6千色の絹糸を用い、一寸(3・03センチ)の中に50本の縦糸を通すという西陣織の伝統技法と最新技術を組み合わせて、法隆寺の金堂壁画「半跏思惟(はんかしい)像」の模写作品(故片岡球子画)をベースに、金堂焼損前の写真を参考にして、剝落した細部までも再現し織り上げられたのである。
いずれの綴織も制作に約3年の歳月を要していた。
今回の驚きは、1300年の時間の経過を織り込んだ技だけではなかった。
「蓮華弥勒像」のお顔には新しい息吹が吹き込まれているのである。
お顔は傷も黒ずみもなく、剝落もない。
その優しげな表情は真っ白く描かれ、
現代の新たな弥勒さまのお顔として創生されていた。
MIHO MUSEUM
滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300
http://www.miho.or.jp/