-4- 僕たちが帰る、港のようなラーメン店
ラーメンが食べたくなったらここへ行く。
僕たちが帰る、港のようなラーメン店。
~our eternal taste~
石田 私はやっぱり幼い頃に父に連れて行ってもらった「第一旭」。本店でも、その他でも。学生時代は早朝のバイトしてましたから、朝早くからやってるというのもありましたし。やはりこの名前が挙がりますね。あとは背脂醤油系ですと、守山に移転されました「山さん」が挙がりますね。
日比 「第一旭」は行きますね、確かに。たかばしへは。
武内 僕も「第一旭」を挙げたいですね。あとは「ラーメン藤」。まぁ似た系統の味の店と言うことになりますが。もう一つ挙げるとするなら、代が変わって味が変わったと言われますがやはり「たんぽぽ」。
MIG 皆さんたかばしが原点とおっしゃることが多いというのもよく解るんです。確かに原点なのは良いのですが、では同じような系統、「第一旭」や「ラーメン藤」もある中で、トータルで見てどの一店が一番真面目につくってて美味いかと言うと、「第一旭」の南インター店も美味いと私は思うんですよ。
石田 あぁ、解るような気はします(笑)。化学調味料少なそうですよね。
日比 南インター店ってパイロット店舗でしょ? 研修するっていう。
MIG あそこは結構、気合い入れてつくってくれる。
武内 僕もフランチャイズ本部から何度かメールをもらったことがあるんですけど、南インター店へは一度行ってくれと言われましたね。
日比 どこの支店が美味しいとかは、あれこれ出てくるでしょうけどもね。
廣瀬 「第一旭」を京都のラーメンとして形容するとしたら、どんな言葉が良いですかね?
MIG 「天下一品」」は晩メシに食べるラーメン。「第一旭」は朝メシに食べるラーメン(笑)。
一同 (笑)。
MIG そんな感じ(笑)。
武内 「朝メシラーメン」(笑)。
廣瀬 やっぱりカロリーは低いですよね?
MIG それは背脂や「天下一品」に比べたらね。大盛りで1100キロカロリーあるのと比べたら。
廣瀬 そうだろうね。600キロカロリーぐらいちゃう?
日比 でも「第一旭」の特製ラーメンはカロリー高そうですよ。
廣瀬 でも京都ラーメンの入門やからね。
日比 なるほど、入門ね。良い言葉ですね。
廣瀬 子供の頃に食べた味でもあるわけで。すり込み現象ではないけど、「車はカウンタックが格好いい!」っていうのと同じ(笑)。
日比 確かに、万人向けですよ。背脂醤油や「天下一品」に比べれば。「ラーメンを食べたい」という時に、誰でも安心して連れていける味ですよ。
MIG 安心して食べれる、朝イチラーメン(笑)。
廣瀬 優等生やわね。だって進化しぃひんもんね。進化しぃひんのはやっぱりホンマモンやと思う。進化のしようがないんでしょうね、完成されてますもん。
日比 行ったことない人を「天下一品」に連れて行くのはある程度バクチなんですけどね(笑)。
廣瀬 連れて行ったら「豚骨臭い!」って言う人いるもんね(笑)。ちょっと待て、と。豚骨は使ってないはずや、と(笑)。
日比 「山さん」が移転したのは残念ですけどね。
廣瀬 さっきから聞いてて「夜鳴きや」の名前が出ませんでしたね。
MIG いやまだこれから皆順番に言っていくから(笑)。「山さん」ねぇ。私は「山さん」に行く前に「ますたに」に行ってしまっていたのでね。
日比 私はもともとずっと住んでたのが松ヶ崎なのでね、橋を渡ったらすぐ一乗寺でね。よく行ったのはバイトの帰りに夜遅くに「天下一品」「天天有」、そして今はなき「龍昇」。これが私の「コッテリのゴールデントライアングル」。
廣瀬 「龍昇」。美味かったなぁ。
MIG 美味しかったと聞きますねぇ。
日比 「龍昇」は、もともとの場所は北山川端の角にあったんですよ。その後一乗寺に移転されましたが、ご主人がお亡くなりになられて閉店になりました。「天天有」は前の代の大将の頃の味ですね。これを言うとMIGさんはイヤな顔をされるんですけど(笑)。およそ20年前は今のような白濁したスープじゃなかったんです。今ほど甘くなくてね、見た目もかなり違ってましたよ。2年半仕事で東京に行っていて、平成元年に帰ってきたら味が変わってました。「龍昇」は豚と鶏のスープに恐らくラードを加えていたと記憶しています。今となっては確認のしようがありませんが…。「天下一品」もその頃はお店でスープを採っていた頃で、飲んでいると小骨が出てきたりして。「何ですかこれ?」って訊くと「すんません、ガラ残ってましたか?」というえぇ話(笑)。麺も今とは違っていた気がします。この3店をぐるぐる回っていたのが、私の原点と言えば原点ですね。今でも「天下一品」は食べに行きますね。「ラーメン食いたいなぁ」じゃなくて「天一食いたいなぁ」と。本店で食べると安心しますね。タマに木村社長いらっしゃいますもんね。蝶ネクタイしてね。
MIG 私は先代の味は知らないのでね。他の地方には無い味だし、京都オリジナルかな、と。
日比 一乗寺老舗の味。というかあの当時は一乗寺には「天天有」ぐらいしかなかったですよね。上にあがると「龍昇」、下にさがると「天下一品」というトライアングル(笑)。
MIG ラーメン街道と呼ばれる前の話ですね。でも一乗寺を「ラーメン激戦区」というのはもうやめましょう。
日比 一乗寺に店を出すだけで名前が売れるというのが、すごく何かこう腹立たしいというか(笑)。
MIG 私は最近行く店はほとんど決まってますけどね。「※風花」。数年経ちますが、基本的に味は変わってないですね。もはや有名店と言っても良いでしょう。皆が古くからある店を挙げても何かなと思って(笑)。私は京都で一番美味しい塩ラーメンだと思いますね。あとは「夜鳴きや」も好きですね。古い店の中では、京都で唯一麺が柔らかくないと言っても良いんじゃないかな。今は親父さんは一歩引いた感じで、されているのかな。あと、よく行くのは「いいちょ」かな。「ますたに」系、「山さん」系と言った方が良いのか、最初の定義に則して言えば「背脂醤油」系と言うべきでしょうか、その中では一番美味しいと思いますね。武内さんは「夜鳴きや」があんまりお好きではない(笑)。
武内 食べてて満足感が無いんですよねぇ。ガラを炊いてはるはずなんだけど、その味が物足りないというか。「ラーメンを食べた」という満足感が無いんですよ。
MIG あそこは夜遅くまでやってはいないですけど、ラーメン屋の雰囲気はありますよ。
石田 「売り切れ御免」というスタイルも早かったし、チャーシューの「細切り」も早かった。「食べたことがある」という自慢ができる店のハシリというか。
廣瀬 「たんぽぽ」もそんなん(細切りチャーシュー)してましたよね。細切りというか何て言うの? クズ? クズチャーシュー?
日比 同じものですね。「豚肉ラーメン」とか、そんな名前じゃなかったですか? 「豚肉ラーメン」と「チャーシューメン」とどう違うの? と思いましたけど(笑)。
武内 あぁ、ありましたね。
廣瀬 ベタですけどね、やっぱり「ますたに」は外せないですね。半年に一回ぐらいはやっぱり食べに行くんですよ。確認のためにね。近くに住んでましたしね。紅白歌合戦で言うたら北島三郎的存在。あそこだけ調理場を見てしまうんですよ。あの活気の無さ、というか妙な静寂ね(笑)。でもあれは気合いが入ってるんですよ。渋さというか、ラーメン屋の王道ですよね。武内さんと飲みに行ったりすると、酔っ払いがチャチャ入れてくるんですよ。「オマエらそないにラーメン好きやったら『ますたに』知ってるけ?」(笑)。そりゃ知ってるけど、知ってるも何もねぇ?(笑)。
武内 アレは何なんやろう?(笑)。知ってると思うでしょう、僕らの会話聞いてたら(笑)。
廣瀬 必ず言われますね。でも最近ちょっと塩っ辛く、醤油辛く感じてきましたけどね。それは僕の舌が変わってきたのかな。ただあぁいう純然たる京都ラーメンというのは何も入れたくないですね。僕はニンニクとか一味とかガンガン入れるの好きなんですけど、やっぱり完成されてるから入れたくないんですね。
MIG 辛かったら酢を入れて下さいって書いてあるやん?
廣瀬 酢はなぁ…。
一同 (笑)。
MIG 入れても変わらないでしょう。
廣瀬 あとは「新福菜館 三条店」。あの趣は好きですね、やっぱりジャズなんて流れてないし、製麺箱の横で食ってるような雰囲気ね。
日比 「ますたに」は食べてる人も静かですもんね。
廣瀬 大盛りたのむとたまに麺がダマになってるけどね。
日比 なってますよね(笑)。
廣瀬 だってドンブリの大きさ一緒やもん(笑)。
石田 でもこのあたりの店になってくると、自分は(ノミネイトに)挙げなくても「解る解る」とは思いますよね。
武内 そうやね。挙げはるのは解るね。
廣瀬 やっぱり歴史がないと、ということかな。
石田 反対意見とかは他にないでしょうかね?
武内 実は僕ねぇ「ぴっかり食堂」の塩ラーメンは美味しいと思うんですが、「風花」はちょっと好きになれないんですよねぇ。何かこう、頼りないというか。
MIG そうですか? 京都のラーメンとして馴染めないという方もいらっしゃいますが、京都系の中で言うと塩ラーメンというのはないですからね。でもそれを言ってしまうと京都は醤油ラーメンしかないのか、という話になってしまいますからね。
日比 武内さんが甲殻アレルギーだからじゃないですか?
武内 あ、そうかなぁ。
日比 「新宿」という文字を入れてはるのがなんでかな?とは思いますけどね。京都で敢えてその文字を入れる必要があるかどうかは私は疑問なんですよ。
MIG じゃぁ「東京ラーメン」は?(笑)。
日比 あれはまた違う話でしょ(笑)。
MIG 入れたらダメということもないでしょう。そこは京都人の了見の狭さじゃないですか? 確かにね、「風花」については色々と言われているようですけどね。取材拒否だったりね。そういうところで嫌う人もいるかもしれないけど、旨味も複雑やし、たっぷりやし。
日比 塩ラーメンの中では確かに、京都の中では安心して食べれますね。私にはちょっと塩分が高いですけどね。
石田 京都人にとっては「豚骨醤油」のように塩ラーメンに関しては基準がないから難しいですよね。慣れないから。
廣瀬 大阪が多いですよね。美味い不味いは別にして、醤油が入ってないと安心しないってのはあるかもね。特に40代は(笑)。
MIG 私は「ますたに」に行くなら、今なら「なるかみ」に行くかな。新しい方が必ずしも良いとは思わないけど、その範疇の中では一番美味しいかな。「ますたに」は原点なんでしょうけど、「なるかみ」の方がキレイにつくってますよね。盛りつけもそうだし、麺とスープの量もそうだし。
武内 そうやね。洗練されてる感じはあるかな。
日比 つくってる人が若いというのもあるんですかね。
石田 無くなってしまったお店でも、今までここのラーメンは美味かった、というのはありますか?
日比 お店が無くなってしまったラーメンって、自分の中で美化してしまっている部分もありますからね。
武内 僕は五条通の新幹線の高架下にあった「東洋亭」ですか? あの頃の「名門」と違う味は忘れられませんね。
廣瀬 僕は昔の「たんぽぽ」かな。見た瞬間にビックリしましたもん。15年ぐらい前。「持ち込みしても良いよ」っていうのにビックリした。京都の美味いラーメン屋を写真付きで紹介してたもん。自分とこじゃない他の店を。ゴッツイ自信があったんでしょうね。
石田 すごく寛容なのかすごく自信があるのか、どっちかでしょうね。
廣瀬 自信でしょうね。
日比 店名は映画からですよね? スープから何からご主人が自分で考えはったとか…。
協議会メンバーの、旧き良きラーメンの想い出や、今はない味に対する憧憬など、3時間強に及ぶ対談は、当たり前のように尽きることを知らないが、ここに登場するラーメン店の数々は、読者諸兄にも既にお馴染みの味かもしれない。だが原点とは、何度通っても飽きることのない味であり、それは廣瀬氏が言うように、完成された味である。弊誌でも過去何度もご登場いただいたお店であり、多くを語ることもないが、むしろ皆さんにも、そんな「心の一店」を見つけていただきたい、増やしていただきたい、そう願ってやまないのである。
さて、京都ラーメン協議会による対談はこれにて終了である。この対談をご熟読いただいたなら、後に続く「京都ラーメン検定」に、いよいよ挑戦していただきたい。
(注)以上本文中「※」は取材拒否