デビュー10周年。「つじ」の恩返し。
愛すべき、京都、母校、そして
音楽シーンについて聞きました
日本を代表する、京都出身シンガーのインタビューではあるが、今回は特に新しい音源があるわけでもない。違和感はありますか? 「ふふふ。大丈夫です」と、落ち着いて笑う。以前とは違う、良い意味で緊張していない感じが、デビュー10周年の余裕というものか。
3年ほど前のインタビューで、「好きなものを上からみっつ、お願いします」と聞くと、答えは「家、鴨川、あとはたくさん(笑)」だった。残念ながらそこに「母校」という答えはなかったが、取材後、「龍大の軽音サークルの先輩に連絡がとりたいんですけど、誰か知り合いにいらっしゃったら教えていただけませんか?」とわざわざ伝えに来てくれた。東京を拠点に活躍する今も、京都は必ず「帰る場所」であり、愛してやまない街である。
その街の昨年を振り返ると、音楽イベントが本当に多かった。全て今年も開催予定の10-FEETの「京都大作戦」、くるりの「京都音楽博覧会」、そして「KMF」という三大音フェスを筆頭に、大小様々なイベントが行われている。
「なんで京都フェスやったん?」
なんて、敢えて喋らないけれど
三大音フェスは全て、京都出身のミュージシャンが、色んなお友達を連れて京都に帰ってきてくれた、ということだ。つじあやのは「京都大作戦」の出演者でもあり、その意味では当事者でもある。
「TAKUMAくんとか、岸田くんとかと、『なんで京都フェスやったん?』なんてことは、まぁ敢えて喋らないんですよ。私たち世代も近くて、私は龍大で岸田くんは立命で、TAKUMAくんは京都の大学じゃなかったけど、同じ時期に(京都で)ライブをやってるんですね。私と同じサークルに、TAKUMAくんをよく観に行ってた子もいたし。たぶん、この10年、みんなそれぞれ一所懸命がんばってきて、気がつくと京都が好きで、『何か恩返しせな』っていうのがあるんじゃないかなぁ、と。単に『ありがとう』っていうのもあるけど、ずっと(仕事を、もしくは音楽を)続けていきたいという熱い気持ちと、京都が好きやし、京都でやっていきたい気持ちがあると思うんです。それがちょうど今なんかなぁ、と。ある意味、ちょっと一段落っていうか、転換期ではあるのかなって」。ご自身も? 「そうですね」。10-FEETがデビュー10年。「同期ですね(笑)」。くるりが11年目。確かに、だいたい同じ。
ライブ・CD、だけじゃないものを
やりたい気持ちはあるなぁ
好きなことが出来るようになった、というと語弊があるかもしれないが、活動というものに関して、自由が利くようになったのはあるかもしれない。「好きな仕事だけを好き勝手に選べるという意味では、決してそんなことはないです。でも彼らはそうなのかな…、いや、彼らがどうかも分からないです(笑)」。そりゃまぁ、滅多なことは想像では言えませんが…。「でも、何となくそうじゃないかなぁ、と思うのは、自分が歌をつくって、ライブをして、レコーディングしてCDをつくって、っていうだけじゃないものをやりたい気持ちはあるのかなぁ、と。それは私もあります」。
今回、母校である龍谷大学への応援ソングをつくることになっている。それが、つじあやの的アプローチということなのだろう。まぁ確かに、「つじあやの主催、巨大京都音フェス」ってのは、ちょっと似合わないような気がするし、同じ気持ちを持っていても、それぞれのやり方がある。
大学に、京都という街に、シーンに
「つじあやの」の、恩返し
「やっぱりどっかで恩返しがしたい、っていうのがあるんですよ。京都の音楽シーンに育てられたっていうのがすごくあって。特に大学時代に色んなライブハウスでライブやって、そこで色んな友達と出会ったり、デモテープ送ったり、っていうのと、もっと遡って中学、高校の頃は、ワークショップっていうのが京都には昔からいっぱいあって、学校跡地でイベントをやってたり、お寺でライブがあったり、私はそういうのによく参加していて、文化的な空気に育てられたんですね。そういう場所を与えられたことに感謝していて、それって京都じゃないとたぶん違うと思っていて。自分も同じように、文化的なものを与える存在になりたいなって。それが彼らの場合、でかいフェスなのかなって。それは10年やってきて思えたことで、デビューして5年とかでは思わなかったことだろうし」。まぁ、デビュー直後ではそんな余裕もないだろう…。「そうそうそう。ないないない(笑)」。
良し悪しではないが、10年経って振り返って、迷う人だっている。だがそうではなく、10年余を三者が振り返って、同時に「故郷」を思ったのは奇跡か必然か。そもそも、耳に入る音源から考えたら、「つじあやの」と「10-FEET」が仲間というのはおかしい気もする。「おかしいですよね、ホントに(笑)。昔は全然知らなかったし。通ったライブハウスも違ったし。10-FEETは『ウーピーズ』、私は行かなかったなぁ。私はもぅ『磔磔』とか(笑)」。
京都の狭さが、逆に広くなって
それは寂しいことかもしれないから
デビュー10周年、α-stationで久しぶりのDJ…。側面は色々あるのだが、今年、彼女に与えられた役目は「龍谷大学のスポークスマン」である。
「370周年を記念する歌をつくってください、ということで、『LIVE IN CLOVER 2009』という番組で、リスナーさんから毎月テーマを決めて、その言葉を送ってもらって、それをもとに曲をつくっていく、と」。なかなか、壮大な感じである。「そうなんですよー。今までやったことがないんで」。
今の、音楽が大好きな学生、音楽を取っ払った学生に伝えたいこと、というかここが可哀想、と思うことなんかはあるのだろうか。ちなみに今の学生も、ときどき自転車を持っていかれてしまっている…。
「今の学生さん、全然わからへんしなぁ(笑)。たぶん、私のときと違うのは、圧倒的に携帯電話とネットがすごいってことだと思うんで。それは今の自分にとっても大事だし、ホンマにないと困るし、『待ち合わせってどうしてたんかなぁ?』って思うぐらい、ないと不便なんですけど、あることで、ね、京都の狭さが逆に広くなってしまっていたら、それは寂しいことなのかなって思ったりして。『足で(情報を)かせぐ』ってことは、私も大学の頃はやってたことやし」。
ウザいかもしれないけど(笑)
一日を大事にして、と言いたい
どんな歌になるか、今はまだ真っ白だろうが、春に出会いがあり、夏に最高潮を迎えて、秋を越え、晩秋に「フッ」と落ちる(落ち着く)、その頃が最も好きな季節だという。番組が9月いっぱい続き、曲ができあがるのは、おそらくその晩秋の頃だろう。
「そう。それ(晩秋の頃)を感じてるからこそやりたいのかもしれないですね。単純に学校とかライブハウスとかシーンとかと離れちゃってるし、今までとは曲のテーマも違うし、ラブソングでもないし…。ただ、大学の頃って、今振り返ったら『あ~いい時間やったなぁ』って思うけど、いくら『恵まれてるねんで』って言われてもそのときは分からないだろうし、私も当時は思わなかったし、言ってもしょうがないな、って思うんですけどぉ、だけどぉっ、でもぉっ(笑)、やっぱり一日一日を大事にして欲しいなぁ、っていう気持ちがあって、歌に込めたいなって思うんです」。お姉さんのお説教になってしまうかもしれない。「そう(笑)。ナンボ言うても、こんなこと言われてもウザいかもしれないけど(笑)」。
京都純度が高い歌ができる
’09年の晩秋をお楽しみに
幼いというのでも、若いというのでもなく、こんなに純度が高い(音楽的にも京都好き的にも)人も珍しい。特に学生諸君、心配はいらない。彼女はそんじょそこらの先輩とは違うから、きっと大丈夫。彼女の歌は「お姉さんのお説教」ではなく、寄り道せずに、高い純度で心に届くはずである。
デビューして10周年という節目に、「今年1年は、京都に頻繁にいようかな、って思ってます。ホンマに、そのあたりをプラプラしてるかも(笑)」という予定はラッキーであるし、毎週地元FM局で彼女の声を、身近に聞けるのも幸せなことである。
くり返すが、ここ20年、京都でこれだけのサイズの、これだけの数の音楽イベントがあったことはないだろう。「家や鴨川が大好き」なつじあやの。FPMや10-FEETやくるりのでかい京都音フェス。今の京都が、何らかの「帰属意識」みたいなもので豊かな音楽シーンを形成しているのは間違いない。
つじあやのが最も好きな晩秋の頃には、「京都大作戦」も「KMF」も「京都音楽博覧会」も終わっている。そして’09にトドメを刺すように、できあがった龍大応援ソングが街に流れる頃、また少し、京都が豊かになっているはずだ。
オフィシャルサイト http://www.tsujiayano.com/
ブログ http://ameblo.jp/tsuji-ayano
(インタビュー2009年5月)