新京都系、ガリバーゲット
邪魔するな、そこどけ、そこどけ、
新京都系、ガリバーゲットが通る。
「青いところで、
お願いします!」
ポキートじゃなくて、
いいの?
「撮影ですか? 青いとこがいい!」。撮影場所についてのリクエストは一発回答。それは「憧れのポキート」でもなく、「女の怨念がドロッとこもった場所」でもなく、「場末の木屋町」でもない。不思議なリクエストであった。
青暗い光射す木屋町のバーが思い浮かんだが、見るからにクールで洒落た店は、ちょっと違う。青い場所、青い場所…。救いの手は、フォトグラファーから伸べられた。「『ソワレ』なんか、どうです?」。そうだった。西木屋町四条にある、創業60年余を数える「喫茶ソワレ」。席のレザーまで蒼く見せる、店中の青い光。「夜会」を意味する店名と、昭和の匂いが、このバンドにはピッタリな気がした。
「Gulliver Get」。’07年メジャーデビュー。「紅い月 〜あの人に愛されますように〜」というデビューシングルは、なだらかなスイングジャズのようなテンポとメロディに、けっこう生々しい歌詞をのっけたナンバーだった。Vo.アヤヲ曰く「火曜サスペンス系」、もしくは「女の怨念がドロッとこもった(MCで自ら放った金言)」、そんな曲調(=バンド調)でもあった。
ホームグラウンドが「LIVE SPOT RAG」という事実だけでも、技術の高さを証明しているようなものだが、実際メンバー全員が音楽学院を首席で卒業するような(あくまでイメージだが)、確たるテクニックを持つ。その彼らが、オール新規レコーディングのアルバムを手に、本格的に全国に打って出る。
粗い男酒は、
よく磨かれた女酒に。
でもストレスを感じるのは、
な〜ぜだ?
本誌の「Power Play Sound(→Click for PDF)」コーナーに登場してもらってから約2年、久しぶりに届いた新譜は、以前に比べて凹凸がない、聴きやすい(良くも悪くも)ものだった。これまでが漁師が浜で飲むような粗い酒だとするならば、新作は女の子が喜ぶ、よく磨かれた上等な酒。女の怨念どころか、痴話ゲンカも見あたらない。ただ1曲目から、ギターはザクザク、ベースはベキベキ鳴っている。これは、ひょっとして…。ストレス溜まってるんじゃないですか? フロントマンのアヤヲに聞いた。
「そんな風に感じます? すごい耳してますね(笑)。溜まってます(笑)。確かに、できあがってみた感想としては、もっと粗くしてもよかったかも。尖る感じは少ないかな」。
みぞおちに溜まった何かをはき出すような、そんなフラストレーションが音の中から感じとれるのである。そしてそれが、良い意味でアルバムにテンションを与えている。
「でも、『まだアカン』はずぅっとありますから。今回のは、えぇ曲できたから、『もっとメタルにしたい!』とか、『もっとレゲエにしたい!』とか。ナンチャッテでできる範囲の、イッパイイッパイまで行きたい、みたいな」。自分たちの曲を「ナンチャッテ」とは? 「それぞれのジャンルにもの凄いリスペクトを込めた、偉大なるナンチャッテ」だ。
技術があるから、
本格派になれる
ナンチャッテという、
圧倒的多様性。
そのナンチャッテは、圧倒的なバリエーション増に貢献していて、ただ、以前に比べると凹凸は少なく思える。「そういうの(凸凹)を取っ払った感じ、分かりやすいものにしようという意識はありますね。マニアックなことは、やりたいと思ったらいつでもできるから(笑)」。
高い技術があるから、音楽に関してマニアックに、もしくはプロフェッショナルになることが、このバンドにとっては簡単なのである。
その「分かりやすさ」にもリスクはある。例えば、3曲目の「木屋町で太ももをなでる」という歌詞。「太ももをなでる」のはいい。問題は「木屋町」という土地名が入ることだ。全国サイズのミュージシャンに、郷土性は時に危ない。
「それは確かにあるんですけど、それは『ススキノ』と読んでもらえたらいいやん、と。京都の一サラリーマンをモチーフにしているので、ここは盛り場じゃダメなんですよね」。曲中の冴えない主人公はメンバーの某らしく、「みんなでゲラゲラ笑いながら録りました」とも。小さなリスクより、「おかしみ」のある曲をつくることの方が大切だった。
「まぁ二年目とか、二作目とかは苦しいっていうじゃないですか。ドップリそれにはまったというか(笑)」と、また笑う。一言喋るごとに、必ずといっても良いほど「(笑)」が入る。そう、このバンドには朗らかさがある。常にそれは変わらない。これは大切なことである。
やりたいこと、
8割完成アルバム。
あとの2割は、
ライブで磨いていく。
前作はインディーズでできあがっていた曲を、いかにライブに近い感じにするかがテーマだった。対して今回は全て新作で、やりたいことの8割ができた。練度を上げる作業はこれからの仕事だ。
上下の違いではなく、前作のバンドの神髄、というか「らしさ」を覚えている人もいるだろう。新作の方が聴きやすいからこそ、前作の方が好きだというリスナーもいるだろう。
「そう言ってもらう方が、『新作良かったよ』って、サラッと言われるよりいい。みんながみんな、出たもの全てを良いっていうのは、まだ数にも入ってないってことやから。やっぱりプロとして数に入れてもらうためには『アレはちょっと…』って言われるようにもならないとね。それはそれで腹たつけど、そいつに『ウン』って言わせたいんですよ(笑)。ただ、ただね。これをライブで観てもらいたい。楽曲自体、素材自体は良いものができてると思うし、ライブはいま、自分たちでも手応えがあるから」。
かつて同コーナーで大沢伸一がこう言った。「ライブは常にアップデイトした最新型である」と。だんだん変わっていく。だんだん育ってるってのが分かる。それを観せたい、聴かせたい、のだと。
言うたモン勝ちの、
免罪符発見。
救いの色は、青だった。
「途中でね、このままやったら、前と同じ、寄せ集めになるぞ、と。『そうじゃないねん』『何が違うの?』で悩んでて、アルバムとしてどうやったら成立するか考えたときに、見つかったのがもともとはアルバムに入れる予定のなかったこの曲で」。
それがタイトル曲にもなっている「スタートの青色」だった。サビではこう唄っている。
「邪魔はしないでね! この熱い瞬間を 迷い吹き飛ばし 沸き上がるステージで溢れ出す 今と未来の種」
「『邪魔しないでね』と。これを言いさえすれば、後は何をやっても良いんじゃないか、と」。それは、免罪符のようなもの? 「そうそうそうそうそう! 免罪符なんすよ。言うたモン勝ち(笑)。それを決めて、目の前が明るくなった。このアルバム、できたんちゃうの?と」
もっとやりたい。もっと詰めたい。もっと、もっと。でもそれをやるとJポップじゃなくなる。それを全部出してしまったら、炎上する赤になる…。楽観的で、苦労性。求道的であり、ストイックな性格は、言葉の端々にこぼれてくる。最後に落とし前を付けてくれたのは、青という色だった。
Gulliver Get(ガリバーゲット)
メジャー2ndアルバム 「スタートの青色」
去る2月4日に、フルアルバムをリリース。4thシングル「コイニオチタ」、扶桑社「マリカ」との連動企画3曲のアルバムバージョン、「コイニオチタ」ボサバージョンを含む全12曲。
10-FEETがいて、
くるりがいて
ガリバーゲットがいたら、
面白くない?
棚からぼた餅のメジャーデビューを望む時代ではなく、メーカーの役目は、ぽっと出に莫大なバジェットをつぎ込んで早期回収を図ることではなく、基礎体力を付けさせて、バンドだけでは見えない場所まで連れて行くことである。自己が強いか、強くないかによってストレスの具合は変わってくる。販路やプレスのサイズが大きくなるということは、つまり自分の身体が大きくなるようなものである。その動きの鈍さに、戸惑うことはあるだろう。くるりだって、きっと同じ道をたどったはずだ。
「そうかもしれませんね。だから、『あぁしたい、こうしたい』っていう発言権がある、ていうことがまずありがたい」。
くるりやつじあやのが、技術を持っていなかったとは、決して思わない。だが、「京都」という雰囲気というか、パブリックイメージをまとって、包括的にそれを武器にしたのは間違いないだろう。「Gulliver Get」には、それがない。極端な言い方をしてしまえば、「京都系」でなくても良い、というかそうである必要がない。それでも彼らは、歌詞に「木屋町」と書き、彼らが「街」と言えば、それは河原町や烏丸であり、阪急前で痴話ゲンカをしているカップルの様子が曲になる。
悲喜こもごもがあった二作目ではあるが、「邪魔しないで」と叫びながら、このバンドは走っていく。
自今の京都でのミュージックフェスは増えていくだろう。そこに名を連ねるのも、面白い。
10-FEETがいて、つじあやのがいて、そしてガリバーゲットがいる。今シーズンの音フェスが、楽しみである。
写真、左から阪口裕一(Sax)、リーダーの山田洋一(B)、アヤヲ(Vo)、鶴田憲司(Dr)、山本隆(G)
http://gulliverget.info/
この記事のA4見開きPDF版
(インタビュー2009年春)