京都ラーメン革命 御三家(あかつき・いいちょ・高安)
それは組合か?
それとも哲学か?
「京都ラーメン業界に、組合みたいなものがあったら、誰が組合長になるんだろうなぁ?」。ふとそんなことを思いついたと思ったら、ウェブの世界にその文字を見つけた。名だたる京都のラーメン店が3軒寄って、「京都ラーメン革命」というホームページを共同で運営しているという。目指すは業界における地位向上か、認知度アップか? その本意に迫ってみた。
「拉麺職人ルポ ここんとこやられてもうた京都ラーメン」。京都CF!誌2001年1月号のタイトルである。奇しくもこの号に「あかつき」「高安」「いいちょ」が揃っている。他にも、今に続く京都ラーメンの雄がこの頃に相次いでオープンしている。思えばエポックな年だったのかもしれない。
「奇跡的やな、この号(先述の本誌’01年1月号)」と口火を切ったのは「いいちょ」の井居達彦さんである。3軒の店主の中では最年長でアニキ的、ちなみに熱狂的な阪神タイガースフリークである。
「もともとボクの店が全然流行らなかったんですよ。ウチの店を救うためにこのホームページを管理してくれている人が皆さんを召集してくれはって。『高安エイド』ですわ(笑)。で、その時に村田さん(「あかつき」の前オーナー)と井居さんを紹介してくれはって、焼肉屋さんで会食して、井居さんが『ホームページしょうや』と」。述懐するのは「高安」の高安慶光さん。
「当時は普通にラーメンを食べに行ってる客と店の人、という関係ですけどね。それ以前に自分の店も危ないのに、高安さん救ってどやねん?みたいなね(笑)。と言いつつも、みんな若い夫婦で店をやり始めた者同士っていうのもあってね〈井居〉」。
「元々おふたりとも、ウチのお客さんではいてくれはったんですよね」とは、現在「あかつき」を切り盛りしている小山裕久さん。
「(自店のオープン前には)ここ(「あかつき」)来てカウンターの幅を計ってましたもんね。『どのぐらいの高さなんやろ?』と(笑)〈井居〉」。
「どうしてラーメン屋同士って、仲悪いと思われるんでしょう?(笑)〈小山〉」。
確かに、イタリアンやフレンチの世界だと、どこそこの店とどこそこの店は仲が良い、なんていう噂がチラホラ聞こえてきたりするのだが…。
「基本的に孤独な、それはそれは孤独な仕事ですからね(笑)〈高安〉」。
このお三方を見る限りは和気あいあいだが、さて、その本来孤独なラーメン店主が集まって、何を考えているのか。
2006年末、実に11軒のラーメン店が一同に会した。「天天有」「あきひで」「鶴はし」「しゃかりき」「新座」「夢を語れ」「Parade」「新進亭」、そしてこの3軒。
「ガレージをね、一乗寺のラーメン屋が集まって借りたらどうやとか、そういう話をしたんです。割り箸をやめて洗って使う箸にしたらどうかとか。これを界隈のラーメン屋がいっせいにやり始めたら、絶対他の店も追従してくれるんちゃうか、と。 実際、駐車場なんかはどこに借りるか、何台借りるか、どの店が使う頻度が多いかというのを考えると難しいですけどね。お箸のこととか、例えばネギって皆九条ネギをよく使うじゃないですか、じゃぁどこかの農家と契約して一括で仕入れるとか。そういう話は次につなげて行きたいですよね〈井居〉」。
「ラーメン屋同士っていうのは、仲良くなれるはずがないと思ってるんですよ。自分の世界に入り込む人が多いから。だったら友達になること自体、革命になるんちゃうかな、と。そもそも『京都ラーメン革命』の名前はそんな思いで付けたんです。今、革命度合いは1%ぐらいでしょうけど〈高安〉」。
「10%は行ってるんちゃう?〈井居〉」。
「何にしろボクらの商売の、社会的意義みたいなもんを三人で突きつめていかなあきませんよね。何のためにこんなしんどい思いをしてるのか(笑)〈高安〉」。
「そっちかい(笑)〈井居〉」。
「学生のときはお金もなくて、『いいちょ』さんでお世話になった人が政治を司る議員さんになってたりするわけで。それだって意義のあることですよ〈小山〉」
「最終的には人類・社会の進歩発展にどれだけ貢献できるかですよ。ボクは恵まれない世界の子供に学校をつくりたいと前から言うてるんですけど。それが税金で行われるんじゃなくて、できれば自分の手でね〈井居〉」。
「要らん税金使われるんなら、左京区のラーメン店全部集めて、アジアのどこかに小学校を建てましょう!〈小山〉」。
「最初はね、自分がつくったラーメンをお客さんに喜んでもらうことが自分の喜びでもあったんですけどね。でもその代償があまりにも大きいんじゃないかと。これだけ火をコンコン炊いて、二酸化炭素を出して、改めて考えると環境問題もありますしね。スープをとるためにガンガン火を炊いてるわけです。それって何万キロカロリーっていうエネルギーを使ってるんですね。それ自体が地球環境に良いのか、と。オレは何をしてるんや?と〈高安〉」。
「ボクもスープを捨てなアカンときに思いますね。鶏何羽分やろ?って〈小山〉」。
「誰もいないときに一人で炊いてると考え事もしますけど、そういうことを考え出すと仕事できないんですけどね。でもやっぱり、考えるからこそオゾンの力を借りる機械で脂を分解して、サラサラの水にして下水に流すようになったわけで…。ところで、こんな話で取材になるの?(笑)〈井居〉」。
なるのである。雑誌のラーメン特集なんていうのは、大概はそのラーメンがいくらか、で始まる。そしてスープは何と何でとっている、という話になって専門度みたいなものが積まれていくのだが本誌では誰が何故、という話をご紹介したいのだ。誰がどんな味を、何故つくってるの? という話の、さらにその向こうにあるのがこの対談なんだと思う。
ラーメンとは、一杯が500円とか600円ぐらいの外食である。それは気楽な食べ物だろう。基本的には、高安さんが言うように、自分の味だけを考えて生きるのがラーメン店主(や料理人)かもしれない。それが今、環境問題や福祉問題を考えるようになっているのだ。それは、人気店になって余裕ができたからとか、そういう事ではなくて、それだけ社会における自らの立ち位置が、けっこう重要な場所だと思えてきたからなんだろう。そういう発想は、ラーメン文化が低い街では起こり得ないのではないか。
実際の貢献度や革命度も、まだ満足できるレベルではないかもしれない。だが、いずれ割り箸ではなくなり、ネギの仕入れが一括になり、一乗寺に複数のラーメン店専用の、大きな駐車場ができたとき。そんな社会の変化ひとつひとつが、ラーメンの大事な「味」として、伝わっていくことを信じてやまないのである。
いいちょ
■京都市左京区下鴨東半木町70-10
075・711・0141
11:00〜15:30(L.O.15:15)17:30〜21:00
(売り切れ次第終了)
木休(祝祭日の場合営業、他2日程不定休)
あかつき
■京都市左京区北白川別当町13番地
075・702・8070 X18:00〜翌3:00/無休
高安
■京都市左京区一乗寺高槻町10
075・721・4878
11:30〜15:30 18:00〜24:00/月、毎28日休