京の仕出し屋 その一
京料理や京割烹の味を居ながらにして味わえる文化を残したい
京の街角を歩くと、「料理・仕出し」という看板や暖簾を見かけるだろう。
戦後の核家族化や住宅事情の変化、節句などの歳時記における祝い事や、宗教への接し方が希薄になり、「仕出し」というもの、そのものを利用する機会が減っている。そのため、その機能をどう使えば良いかを知らない人も増えてきている。
一方、ピザのケータリングサービスや、弁当や食材の配達も重宝がられているが、寿司、うどん、丼などの出前は何とか細々と生きながらえているのが現状である。
仕出し屋は、お客の注文に応じて料理を作って配達するのが領域で、元来調理場あれど客席はないのである。
しかし、仕出し屋だけで生業とならないところは、地の利があると、自宅を改造し、カウンターや座敷を設け、小料理屋や居酒屋と兼業しているところもある。寂しいことだが、仕出し専門のところは明らかに少なくなっている。
京料理や京割烹の味が、自宅でいただけるこの文化が途絶えない時代でありつづけてほしいし、利用の仕方を是非知って貰いたい。小生は慶弔のとき以外でも、大事な来客と昼食をとりながらの面談に、幕の内弁当などの仕出しをとることがある。
注文の所作は店屋物(てんやもん)のうどん、そばを取るのと同じだ。
気分は上にぎりの寿司に天ぷらなど一品をつけて出前してもらう心地である。
上にぎりを注文するつもり(予算)があれば、仕出し屋を使うことが出来る。
2,000円位からなら幕の内弁当が、5,000円もあれば松花堂や懐石膳が、10,000円も見ておくと、あれこれ一品ごとに注文をつけ、具材や味加減を問答しても充分に事を成すことができる。すると、白の割烹着姿の板前見習がおかもちを下げて威勢よく届けてくれるという塩梅である。
それはつまりどういうことか? というと、居ながらにして、誠に贅沢な調理場を抱えているということになるのだ。
次に、仕出し屋の弁当箱や器は、頃合に揃えられていて、家庭での器などが無くても済む。デパ地下の高級惣菜を買ってきても、台所は何かと忙しいのに変わりないのだ。
法事のあとの足洗いのお膳ともなれば、人数も多いので仕出し屋の器が合理的である。
また、食い初め、節句の時は、事前に器を確かめると良い。自前の自慢の大皿に盛って貰いたい時はその器を持ち込み、お似合いの具材で調理して貰う融通もきく。
そして、仕出し屋の気の入った料理は、高級京料理屋の一品となる。
料理屋の座敷に上ることからすると、その味が半値から三分の一の値段でいただけることになる訳だからお得この上ないのである。
「菱岩」などの仕出しは、祇園のお茶屋に上ると届けられているし、「辻留」の仕出しはお茶席での点心でいただけるので、お分かりいただけるだろう。
(続く)
辻留
http://www.kyomeibutuhyakumikai.jp/tujitome.htm
菱岩 (degiStyle京都)
http://www.digistyle-kyoto.com/gourmet/hyakumikai/kaisekiryori/hishiiwa.html